「怒りをコントロールしなければ」「後悔ばかりしてしまう」「恥ずかしい自分が嫌い」。
このシリーズでは、感情調節の基本から始まり、怒り・罪悪感・恥という3つの感情の正体と向き合い方をお伝えしてきました。
最後となるこの記事では、シリーズ全体を貫く一つのことと、どの感情にも共通して使える3つの原則をお伝えします。
このシリーズが伝えたかった一つのこと
感情は、消すものではなく、扱うものです。
「感情をコントロールする」と聞くと、多くの人は「感情を出さないようにする」と解釈します。でも、感情を抑え込むほど、感情は出口を探し続けます(※1)。
感情調節の基本でお伝えしたように、感情を扱うとは、感情に気づき、名前をつけ、その奥を見ることです。それは感情を消すこととはまったく違います。
3つの感情が教えてくれること
怒りが教えてくれること
怒りの記事でお伝えしたように、怒りは「二次感情」です。怒りの奥には、傷つき・悲しみ・失望・恐れといった一次感情が隠れています。
怒りが教えてくれるのは、「あなたにとって大切なものが脅かされている」ということです。
罪悪感が教えてくれること
罪悪感の記事でお伝えしたように、罪悪感は「自分がダメな証拠」ではありません。
罪悪感が教えてくれるのは、「あなたが大切にしている価値観がある」ということです。
恥が教えてくれること
恥の記事でお伝えしたように、恥は隠すほど強くなる感情です。
恥が教えてくれるのは、「あなたが人とのつながりを求めている」ということです。
怒り・罪悪感・恥、3つの感情に共通しているのは、どれも「情報」だということです(※2)。感情は、自分の価値観・必要としているもの・求めているものを教えてくれる信号です。感情を消そうとするのではなく、そのメッセージを受け取ることが、感情と上手につきあう出発点になります。
感情を扱うための3つの共通原則
原則1:まず「気づく」
すべての感情の扱いは、気づくことから始まります。
「なんか嫌だ」「もやもやする」という漠然とした状態に、「今、自分は怒っている」「これは恥を感じている状態だ」と名前をつけるだけで、感情と自分のあいだに距離が生まれます(※1)。
気づくことは、感情を消すことではありません。感情をただ見ることです。そこから始めるだけでよいのです。
原則2:感情の「奥」を見る
感情には、必ず背景があります(※2)。
怒りの奥には一次感情がある。罪悪感の奥には価値観がある。恥の奥には「つながりたい」という欲求がある。
表面の感情だけを扱おうとすると、もぐらたたきになります。「なぜこの感情が起きているのか」を一歩掘り下げることが、感情との関係を変える核心です。思考の歪みが感情を増幅させていることもあります(参考:思考の歪みがストレスを生み出す)。
原則3:感情を感じている自分に思いやりをもって接する
感情を感じている自分を責めないことが、すべての土台です。
「こんな感情を持つ自分はダメだ」という自己批判が加わると、感情はさらに扱いにくくなります(※3)。感情を感じていること自体は、人間として自然なことです。
「今、自分は傷ついているんだな」と、友人に接するように自分に接する。セルフ・コンパッションと呼ばれるこの姿勢が、感情調節の土台になります(※4・※5・※6)。
今の自分に合う記事を選ぶ
感情調節シリーズの各記事は、それぞれ独立して読めます。今の自分に近い感情から読んでみてください。
感情的になってしまう自分を変えたい方は、感情調節の基本と3つのステップから始めてみてください。
カッとなってしまう・怒りを溜め込んでいる方は、怒りの正体と「溜める・出す」以外の選択肢を読んでみてください。
後悔や罪悪感が消えない方は、罪悪感と後悔の心理を読んでみてください。
恥ずかしい・消えてしまいたいと感じる方は、自己嫌悪と恥の感情を扱う方法を読んでみてください。
今日からできる小さな一歩
今日、何か感情が動いた瞬間に、一つだけ試してみてください。
「今、自分は何を感じているか」を心の中で言葉にする。怒り・悲しみ・罪悪感・恥・不安、どれでもかまいません。
感情に名前をつけること。ただそれだけでよいです。感情は消えなくてよいです。気づかれるだけで、少しずつ変わっていきます。
まとめ
感情は、消すものではなく、扱うものです。
怒りは一次感情のサイン。罪悪感は価値観のサイン。恥はつながりを求めるサイン。どの感情も、自分について大切なことを教えてくれる情報です。
気づく、奥を見る、自分に思いやりをもって接する。この3つの原則が、どの感情にも共通して役立ちます。
感情との関係は、一気に変わりません。でも、気づくことを積み重ねていくと、少しずつ感情に振り回される時間が減っていきます。
このシリーズの全記事
- 「感情的になってしまう」のは意志の弱さではない|感情調節の基本と3つのステップ
- 怒りを爆発させてしまう自分|怒りの正体と「溜める・出す」以外の選択肢
- 「あのときこうすればよかった」が止まらない|罪悪感と後悔の心理
- 恥ずかしい自分が嫌い|自己嫌悪と恥の感情を扱う方法
参考文献
※1 Gross JJ & John OP (2003). Individual differences in two emotion regulation strategies: Implications for affect, relationships, and well-being. Journal of Personality and Social Psychology, 85(2), 348-362. PMID: 12916575
感情抑制と認知的再評価を比較した研究。感情を抑え込む戦略が感情体験を変えないまま対人関係を損なわせることを示した。
※2 Aldao A, Nolen-Hoeksema S & Schweizer S (2010). Emotion-regulation strategies across psychopathology: A meta-analytic review. Clinical Psychology Review, 30(2), 217-237. PMID: 19744768
複数の感情調節戦略とさまざまな精神疾患の関連をメタ分析した論文。受容・再評価が適応的で、回避・抑制・反芻が不適応的であることを示した。
※3 Nolen-Hoeksema S (2000). The role of rumination in depressive disorders and mixed anxiety/depressive symptoms. Journal of Abnormal Psychology, 109(3), 504-511. PMID: 11016119
反芻思考がうつ・不安症状を悪化させることを示した研究。感情を責め続けることが回復を妨げるメカニズムの根拠となる論文。
※4 ブレネー・ブラウン(小川敏子 訳)「本当の勇気は『弱さ』を認めること」講談社(2013)
恥・罪悪感・傷つきやすさの研究から、人とのつながりと自己への思いやりが感情回復の核であることを示した一冊。
※5 クリスティン・ネフ「セルフ・コンパッション」金剛出版(2014)
自己批判の代わりに自分への思いやりを向けるセルフ・コンパッションの理論と実践。感情を感じている自分に優しく接することの根拠となる一冊。
※6 D.D.バーンズ(大野裕 訳)「いやな気分よ、さようなら(増補改訂第2版)」星和書店(2013)
感情を増幅させる思考の歪みのパターンと、認知再構成による感情調節の実践を具体的に解説した認知行動療法の実践書。


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