思わずカッとなってしまった後、「なんであんなことを言ったんだろう」と後悔したり、怒りを表に出せずに溜め込み続けて、ふとした瞬間にどっと疲れる。
怒りは、感情の中でもとくに扱いにくいと感じている人が多いです。「大人なんだから怒りをコントロールしなければ」「怒るのは子どもっぽい」と、怒りそのものを否定するように育てられた人も少なくありません。
でも怒りは、抑えるものでも爆発させるものでもありません。怒りには、もう一つの読み方があります。
怒りは「二次感情」である
心理学では、怒りを「二次感情」と位置づけることがあります(※1・※4)。
二次感情とは、別の感情が満たされなかったときに変換されて生まれる感情のことです。怒りの奥には、たいていもう一つの感情が隠れています。
怒りの奥にある「一次感情」
会議で意見を無視された → 「軽く扱われた」という傷つき
子どもに何度言っても伝わらない → 「わかってほしい」という悲しみ
パートナーに約束を破られた → 「信じていたのに」という失望と恐れ
仕事でミスをした → 「こんな自分が情けない」という自己嫌悪
このように、怒りの手前には傷つき・悲しみ・恐れ・不安・失望といった「一次感情」があります(※1)。
怒りが生まれるまでのプロセス
一次感情が十分に受け取られなかったとき、または「この感情を見せてはいけない」と抑え込んだとき、感情は「怒り」という形に変換されます。
怒りは、見えにくい一次感情の「代理表現」ともいえます。
だから、怒りを直接コントロールしようとしても難しいのです。怒りの奥にある一次感情を見つけることが、本当の出発点になります。
怒りが扱いにくくなる3つの背景
①「怒りは悪いもの」という思い込み
「怒るのはみっともない」「感情的になってはいけない」と育てられた人は、怒りを感じた瞬間に「この感情はいけない」と抑え込みます。
しかし感情を抑え込むほど、その感情は出口を探し続けます。感情調節の基本でも解説しているように、蓄積された怒りは関係ない場面で突然溢れ出すことがあります。
②思考の歪みが怒りを増幅させる
怒りは、出来事そのものではなく、その出来事への解釈によって増幅されます(※2)。
「どうせまた同じことをされる(結論の飛躍)」「あの人は私のことを馬鹿にしている(読心術の誤り)」「こんなことになるべきではなかった(すべき思考)」。こうした解釈が加わると、出来事よりはるかに大きな怒りになります。思考の歪みのパターンについては思考の歪みがストレスを生み出すで詳しく解説しています(※5)。
③過去の経験が怒りのパターンを作る
幼少期に怒りを表現することが許されなかった環境、あるいは怒りが暴力として向けられた環境で育った場合、怒りへの反応が過敏になることがあります(※3)。
「また同じことが起きる」という予測が、実際の出来事より先に怒りを呼び起こすのです。
怒りを扱う3つのステップ
ステップ1:まず6秒、待つ
怒りのピークは6秒程度で過ぎることが知られています。カッとなった瞬間に言葉や行動に出るのではなく、まず6秒だけ待つ。深呼吸を一回するだけでもよいです(※4)。
この6秒は、前頭前皮質(理性の脳)が働きを取り戻すための時間です。
ステップ2:怒りの奥にある「一次感情」を探す
6秒待ったあと、「この怒りの奥には何があるか」を自分に問います。
傷ついた? 悲しかった? 恐かった? 期待を裏切られた?
言葉にしにくくてもかまいません。自分の思いに気づくことから始まる自己信頼の育て方でも触れているように、「なんかモヤモヤする」という段階でも、感情に向き合おうとすること自体が変化の始まりです。
ステップ3:一次感情を「伝えられる言葉」に変える
怒りをそのままぶつけるのではなく、一次感情を相手に伝える言葉に変えます。
「なんでそういうことするの!」→「そうされると、自分が大切にされていない気がして悲しかった」
すぐにはうまくできなくてよいです。まず自分の中で一次感情に気づくだけで、怒りとの関係が変わり始めます(※6)。
今日からできる小さな一歩
今日、怒りを感じたとき、「この怒りの奥には何がある?」と一度だけ自分に問いかけてみてください。
答えが出なくても、問いかけること自体が怒りとの距離を作ります。
怒りは敵ではありません。傷ついた自分が助けを求めているサインです。まずはその声に気づくところから始めましょう。
まとめ
怒りは「二次感情」です。その奥には、傷つき・悲しみ・恐れ・失望といった一次感情が隠れています。
怒りを抑えることにも、爆発させることにも限界があります。一次感情に気づき、言葉にすることが、怒りを扱う本当の出発点です。
思考の歪みが怒りを増幅させていることもあります。「また同じことが起きる」という解釈を、少し立ち止まって見直す習慣が、怒りのパターンを少しずつ変えていきます。
このシリーズの全記事
「感情は消すのではなく、扱うもの」を軸に、日常でよく経験する怒りや後悔といった感情の正体と向き合い方を解説するシリーズです。
- 感情と上手につきあうとはどういうことか|感情調節シリーズ総集編
- 「感情的になってしまう自分が嫌い」と思う前に知ってほしい感情のしくみ
- 「あのときこうすればよかった」が止まらない|罪悪感と後悔の心理
- 恥ずかしい自分が嫌い|自己嫌悪と恥の感情を扱う方法
参考文献
※1 Berkowitz L & Harmon-Jones E (2004). Toward an understanding of the determinants of anger. Emotion, 4(2), 107-130. PMID: 15222847
怒りの発生メカニズムを認知・神経科学の両面から検証した研究。怒りが一次感情への反応として生じることを示している。
※2 Gross JJ & John OP (2003). Individual differences in two emotion regulation strategies: Implications for affect, relationships, and well-being. Journal of Personality and Social Psychology, 85(2), 348-362. PMID: 12916575
感情抑制と認知的再評価を比較した研究。抑制は感情体験を変えないまま表現だけを抑え、対人関係に悪影響を与えることを示した。
※3 Hofmann SG, Sawyer AT, Fang A & Asnaani A (2012). Emotion dysregulation model of mood and anxiety disorders. Depression and Anxiety, 29(5), 409-416. PMID: 22430982
感情調節の困難さが気分・不安障害の根底にあることを示したモデル。過去の環境が感情パターンに与える影響を論じている。
※4 安藤俊介「アンガーマネジメント入門」朝日新聞出版(2016)
日本アンガーマネジメント協会代表による入門書。怒りのピークが6秒で過ぎることや、怒りを否定せず上手に扱う考え方を具体的に解説している。
※5 D.D.バーンズ(大野裕 訳)「いやな気分よ、さようなら(増補改訂第2版)」星和書店(2013)
認知行動療法の実践書。すべき思考・結論の飛躍・読心術の誤りなど、怒りを増幅させる思考の歪みのパターンを具体的に解説している。
※6 クリスティン・ネフ「セルフ・コンパッション」金剛出版(2014)
怒りを感じた自分を責めるのではなく、思いやりを向けるセルフ・コンパッションの実践を解説。一次感情に気づき受け入れる姿勢の根拠となる一冊。


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