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ストレスの対処法で消耗を減らす|2種類の対処法の使い分け

ストレスの対処法で消耗を減らす|2種類の対処法の使い分け ストレスの話

同じ職場にいるのに、あの人はなぜそんなに平気そうなんだろう。

月曜の朝、また重い会議が始まる。終わった後、上司の言葉が頭から離れない。家に帰っても気が休まらない。

そんな毎日を過ごしながら、「自分は打たれ弱いのかもしれない」と感じたことはありませんか。

でも、消耗しやすいかどうかは、性格の問題だけではないかもしれません。ストレスへの「対処の仕方」が、消耗の深さを大きく左右しています。

この記事では、ストレス研究の基盤となるラザルス&フォークマンの「認知的評価理論」と、2種類のコーピング(対処)戦略をもとに、消耗しにくくなる考え方をお伝えします。

ストレスは「出来事」ではなく「評価」から生まれる

「ストレスがかかる」と聞くと、「嫌な出来事が起きた」ことだと思いがちです。

でも実際には、同じ出来事でも人によってストレスの感じ方はまったく違います。締め切りを「やりがい」と感じる人もいれば、「脅威」と感じる人もいる。その違いはどこから来るのでしょうか。

心理学者のラザルスとフォークマンは、ストレスを「環境からの要求が、個人の対処能力を超えると判断されたとき」に生じると定義しました(※1・※4)。つまり、ストレスの源は出来事そのものではなく、その出来事をどう「評価」するかにあります。

一次評価:「これは自分にとって脅威か?」

脳はまず、目の前の出来事が「自分にとって脅威かどうか」を瞬時に判断します。これを一次評価と呼びます。

「無害だ」と判断すれば、ストレス反応は起きません。「脅威かもしれない」と判断したとき、次のステップに移ります。

二次評価:「自分はこれに対処できるか?」

次に、「自分にはこの状況に対処できるか」を評価します。これを二次評価と呼びます。

「なんとかなりそうだ」と感じれば、ストレスは軽くなります。「どうにもできない」と感じるほど、ストレスは強くなります(※1)。

ここで重要なのは、「対処できるか否か」の判断は、実際の能力よりも「自分がそう感じるかどうか」で決まることです。同じ力量の人でも、自分への信頼の差がストレスの重さを変えます(参考:自己効力感とは何か|「どうせ自分には無理」という感覚の正体)。

コーピングの2種類と使い分け

ストレスへの対処を「コーピング(coping)」と呼びます。コーピングには大きく2種類あります(※2)。

問題焦点型コーピング:状況そのものを変える

ストレスの原因(ストレッサー)に直接働きかけ、状況を変えようとする対処法です。

「仕事量が多すぎる」というストレスに対して、上司に相談して業務を調整する、優先順位を整理する、スキルを身につけて処理速度を上げる。こういった行動がこれにあたります。

状況を変えられる場面では、問題焦点型が最も効果的です。

情動焦点型コーピング:自分の感情を調整する

ストレスの原因そのものは変えられないとき、自分の感情や受け取り方を調整する対処法です(※3)。

「上司の評価が気になって眠れない」というとき、深呼吸をする、散歩に出る、友人に話す、日記を書く。こういった方法がこれにあたります。感情そのものを扱う具体的な方法は、「感情的になってしまう自分が嫌い」と思う前に知ってほしい感情のしくみで詳しく解説しています。

どちらが正しいではなく「状況で選ぶ」

多くの人が陥るのは、どちらか一方に偏ることです(※2・※5)。

「なんとかしなければ」と問題焦点型ばかり使い続けると、変えられない状況を前に疲弊します。反対に、感情の調整ばかりで問題から目を背け続けると、状況は改善しないまま消耗が続きます。

コントロールできる部分には問題焦点型を、コントロールできない部分には情動焦点型を使う。この使い分けが、消耗を減らす鍵です。

消耗しやすいパターンに気づく3つのサイン

自分がどちらかに偏っているかどうかは、次の3つのサインで確認できます。

サイン1:「どうにかしなければ」が止まらない

問題に対して行動し続けるのに、状況が変わらない。それでも「もっとやれば変わるはず」と頑張り続ける。

変えられない部分に問題焦点型を使い続けているパターンです。心配癖の心理でも触れているように、「きっとうまくいかない」という思考が、行動の歯車を空回りさせていることがあります。

サイン2:気晴らしが「逃避」になっている

感情を調整しようとして、過食・過度な飲酒・SNSの見すぎといった行動をとる。気晴らしのつもりが、翌日さらに罪悪感を感じる。

情動焦点型の中でも「回避」に偏っているパターンです(※3)。感情を調整することと、感情から逃げることは違います。

サイン3:頭の中でずっと繰り返している

出来事が終わったあとも、「あのとき○○すればよかった」「なぜあんなことを言われたのか」と頭の中で繰り返す。

これは反芻思考と呼ばれる状態で、問題焦点型でも情動焦点型でもなく、ただ消耗だけが続くパターンのサインです(※5)。

今日からできる小さな一歩

次にストレスを感じたとき、2つの問いを立てるだけ試してみてください。

「この状況は、自分の行動で変えられるか?」
「変えられないなら、自分の感情に何ができるか?」

どちらかに答えるだけで、対処の方向が決まります。完璧な答えでなくてよいです。「変えられそうにないから、今日は散歩してみよう」という小さな選択が、消耗のパターンを少しずつ変えていきます。

日常でできる具体的な習慣については、不安を和らげる3つの習慣もあわせて読んでみてください(※6)。

まとめ

ストレスは、出来事そのものではなく、その出来事への「評価」と「対処の仕方」で深さが決まります。

問題焦点型(状況を変える)と情動焦点型(感情を調整する)。この2つを状況に応じて使い分けることが、消耗しにくくなる第一歩です。

「どうにかしなければ」でも「何もできない」でもなく、「今、自分にできることは何か」を問う習慣が、ストレスとの関係を少しずつ変えていきます。

このシリーズの全記事

「感情は消すのではなく、扱うもの」を軸に、日常でよく経験する感情の正体と向き合い方を解説するシリーズです。

参考文献

※1 Folkman S & Lazarus RS (1988). Coping as a mediator of emotion. Journal of Personality and Social Psychology, 54(3), 466-475. PMID: 3204432
ラザルスとフォークマンの認知的評価理論を検証した研究。一次評価(脅威か否か)と二次評価(対処できるか否か)が、ストレス感情の強さを媒介することを示した。

※2 Carver CS, Scheier MF & Weintraub JK (1989). Assessing coping strategies: A theoretically based approach. Journal of Personality and Social Psychology, 56(2), 267-283. PMID: 2926629
問題焦点型・情動焦点型・回避型などコーピングを多次元で測定する尺度を開発し、各コーピングの適応的・不適応的な効果を示した研究。

※3 Lazarus RS (1993). Coping theory and research: Past, present, and future. Psychosomatic Medicine, 55(3), 234-247. PMID: 8346332
コーピング研究の理論的発展を整理したレビュー論文。問題焦点型と情動焦点型の使い分けが状況依存であることと、回避的コーピングのリスクを論じている。

※4 ラザルス RS・フォークマン S(本明寛・春木豊・織田正美 監訳)「ストレスの心理学」実務教育出版(1991)
認知的評価理論の原典。一次評価・二次評価・コーピングの3要素でストレスを説明する枠組みを体系的に提示した古典的著作。

※5 D.D.バーンズ(大野裕 訳)「いやな気分よ、さようなら(増補改訂第2版)」星和書店(2013)
認知行動療法の実践書。思考の歪みがストレス反応を増幅させる仕組みと、反芻思考から抜け出すための具体的な認知再構成の方法を解説している。

※6 大野裕「ストレスに負けない生活」ちくま新書(2003)
認知行動療法の第一人者による入門書。日常のストレス対処に情動焦点型と問題焦点型を組み合わせる実践的な考え方を、具体的な事例をもとに解説している。

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