はじめに
会社員(もしくは社会人)として毎日慌ただしく生活するうちに、ふと自分を取り巻く現状を見直した時、「このままでいいのかな」と感じるのは、珍しいことではありません。
朝の通勤電車で何となく気が重い。日曜の夕方になると、憂鬱な感覚がじわっとやってくる。特に大きな出来事があったわけではないのに、なんとなく自分のいる場所が合っていない気がする。そんな感覚を一度は経験したことがあるのではないでしょうか。
スティーブ・ジョブズは言った:
「もし今日が人生最後の日だとしたら、今日やろうとしていることをやりたいと思うか?」
If today were the last day of my life, would I want to do what I am about to do today?

Apple共同創業者
(スタンフォード大学卒業式スピーチ 2005年)
「人生設計」という言葉を聞くと、少し大袈裟で、多くの人は「目標を立てる」「計画を作る」「将来を決める」というイメージを持つかもしれません。でも、人生設計の本当の入口は、計画を立てることではありません。今、自分が持つ違和感を認め、確かめることです。
この記事では、会社員が感じやすい違和感の正体と、それを整理するための「4つの問い」を紹介します。転職・不安・人間関係・キャリアのどこから手をつければよいか迷っている方に、整理の助けになれば嬉しいです。
「人生設計」が重く感じるのは、意味を誤解しているから
人生設計は、難しいものだと思われがちです。
「10年後のビジョンを描く」「ライフプランを立てる」「資産を計算する」。そういったイメージがあるせいで、「自分にはまだ早い」「もっとちゃんと考えてから」と後回しにしてしまう人は少なくありません。
私たちは多くの場面で、物事を実際より大変に、複雑に感じてしまう認知的な傾向を持っています(※1)。人生設計という言葉への「重さ」も、そのひとつかもしれません。
でも、人生設計とは将来の計画を立てることではありません。今、自分の状態を整理するプロセスのことです。
今感じている違和感は何か。何に疲れているのか。何を大切にしたいのか。それを言語化するだけで、視界が少し開けます。感情に名前をつけることが扁桃体の過剰反応を和らげ、より落ち着いた判断を助けることは、神経科学的にも確認されています(※2)。
整理することが人生設計の第一歩です。完璧な計画は、その後でいい。
「このままでいいのか」が来やすい3つの理由
仕事に慣れてくると、ある時期から「棚卸し」の感覚が出てきます。理由は大きく3つあります。
ひとつ目は、成果と評価のズレが見え始めることです。がむしゃらに動けた時期を過ぎると、成果を出しても報われない、キャリアが止まっている気がするという感覚が出てきます。キャリア停滞を感じたとき「静かな退職」を選ぶ前に考えることでも触れていますが、この感覚は個人の問題ではなく、職場の構造との不一致から生まれることが多いです。
ふたつ目は、人間関係の消耗が蓄積してくることです。職場・家族・友人と、関わる関係の密度と複雑さが増してくるにつれて、消耗のパターンも変わっていきます。人間関係で疲れやすい人の心理|消耗のパターンを知ると楽になるで整理しているように、消耗のパターンを知るだけでも、少し楽になることがあります。
みっつ目は、不安の性質が変わることです。漠然とした不安が、いつの頃からか「転職しないと手遅れになるのでは」「このままキャリアが止まってしまうのでは」という具体的な恐怖に変わっていきます。漠然とした不安が消えない理由と、正体を知るための3つの問いでは、この不安の構造を整理しています。
人生設計は「4つの問い」から始まる
複雑に感じる人生設計も、4つの問いを順番に考えるだけで、かなり整理できます(※3)。
Question 1:何が不満で、何が不安か
まず、今感じていることを言葉にします。「なんとなく嫌」ではなく、「仕事の評価が不透明で納得できない」「将来の収入が不安」「上司との関係が消耗する」と、できるだけ具体的に書き出してみてください。
漠然とした感覚を言葉にするだけで、問題の輪郭が見えてきます。
Question 2:何を大切にしているか
不満が見えたら、次に「自分が本当に大切にしていること」を探します。安定・成長・自由・貢献・承認・家族との時間。どれが自分にとって優先度が高いか、並べてみましょう。
キャリアの棚卸しとは何か|7割が「できていない」と言う理由と整理の始め方では、経験・スキル・価値観の3軸で整理する方法を解説しています。参考にしてみてください。
Question 3:仕事・お金・人間関係のどこが一番しんどいか
3つの領域のうち、どこが最もストレスの根源になっているかを特定します。複数あってもかまいませんが、「一番しんどいのはどれか」を決めると、次の行動が選びやすくなります。
仕事そのものが問題なら、転職や職種変更を検討するきっかけになります。お金の不安が根底にあるなら、副業や資産形成の知識が助けになります。人間関係が主な消耗源なら、距離の取り方や境界線の考え方を学ぶことが先決です。
Question 4:何年後の自分をイメージしているか
時間軸を設定します。「3年後」「5年後」「10年後」のどのスパンで考えるかによって、今とるべき行動は変わります。
「人生で得られる経験を最大化するには、いつ何をするかという時間の使い方が決定的に重要だ」と説く考え方があります(※4)。転職やキャリアの変化も、「何年後に何を手にしたいか」という時間軸で考えると、判断の基準が見えやすくなります。
焦る必要はありません。ただ、「いつまでに何かを変えたいか」を意識するだけで、行動の優先順位がつきやすくなります。仕事に使命感を感じている人ほど、職業アイデンティティが安定し、行動への意欲も高まることが研究で示されています(※5)。問い2で見つけた「大切にしていること」が、その糸口になります。
課題別・読む記事の地図
4つの問いで自分の状態が少し見えてきたら、次は課題に合った記事を参考にしてみてください。
| 今感じている違和感 | 読む記事 |
|---|---|
| 転職しようか迷っている | 転職活動の情報収集は何から始める? |
| 転職の不安が強くて動けない | 転職の不安は消えなくていい |
| 仕事の意味が見えなくなった | 働く意味がわからなくなったとき |
| 職場の人間関係が消耗する | 人間関係で疲れやすい人の心理 |
| 思考のクセが気になり始めた | あなたの「思考癖」はあなたの強み |
| 燃え尽きそうな気がする | 燃え尽き症候群とは何か |
今日からできる小さな一歩
人生設計を始めるために、今日できることを3つ挙げます。どれも5分以内で終わります。
- 紙に「今、一番しんどいこと」を1行だけ書いてみる
- 「仕事・お金・人間関係」の3つに◎○△をつけてみる
- 上の地図から、自分に一番近い記事を1本だけ読んでみる
行動は小さくていい。まず言葉にすることで、整理が始まります。
まとめ
- 人生設計とは計画を立てることではなく、今の違和感を整理するプロセス
- 「このままでいいのか」が来やすいのは、成果・人間関係・不安の変化が重なるため
- 4つの問い(不満・価値観・課題の特定・時間軸)で現在地が見えてくる
- 課題が見えたら、その課題に合った記事へ進むことが次の一歩(になるかも)
あなたが感じている違和感は、何かがおかしいサインではありません。自分の状態を整理するタイミングが来た、ということです。焦らず、あなたのペースで、一つずつ整理していきましょう。
参考文献
※1 Rosling, H., Rosling, O., & Rönnlund, A. R.(上杉周作・関美和 訳). (2019). FACTFULNESS: 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣. 日経BPマーケティング.
ISBN: 978-4822289607
私たちが無意識に持つ10種類の認知的偏りを明らかにし、データに基づいて世界を正確に見る思考習慣を解説した。
※2 Lieberman, M. D., Eisenberger, N. I., Crockett, M. J., Tom, S. M., Pfeifer, J. H., & Way, B. M. (2007). Putting feelings into words: Affect labeling disrupts amygdala activity in response to affective stimuli. Psychological Science, 18(5), 421-428.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17576282/
感情を言語化すること(アフェクト・ラベリング)が扁桃体の活動を抑制し、感情的な刺激への反応を和らげることを示した。
※3 Savickas, M. L. (2005). The theory and practice of career construction. In S. D. Brown & R. W. Lent (Eds.), Career development and counseling: Putting theory and research to work. Wiley. ※書籍のためNCBIリンクなし
キャリアを「自分の人生の物語を構築するプロセス」として捉えるキャリア構築理論を提唱し、意味づけと適応性がキャリア発達の中核にあることを示した。
※4 Perkins, B.(児島修 訳). (2020). DIE WITH ZERO: 人生が豊かになりすぎる究極のルール. ダイヤモンド社.
ISBN: 978-4478109687
人生で得られる経験を最大化するという視点から、お金・時間・健康を「いつ使うか」という時間軸で考えることの重要性を論じた。
※5 Hirschi, A. (2012). Callings and work engagement: Moderated mediation model of work meaningfulness, occupational identity, and occupational self-efficacy. Journal of Counseling Psychology, 59(3), 479–485. DOI: 10.1037/a0028160.
仕事への使命感と従業員エンゲージメントの関係を分析し、仕事の意味づけが職業アイデンティティと自己効力感を通じてエンゲージメントに影響することを示した。


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