「キャリアの棚卸しをしなければ」と思いながら、ずっと後回しにしている。
そんな方は少なくないはずです。調査によると、30代から50代の約7割が「自分のキャリアの棚卸しができていない」と回答しています(参考文献※1)。
棚卸しが大事なことはわかっている。でも、何から手をつければいいのかわからない。あるいは、「今さら振り返っても変わらない」という気持ちが邪魔をする。
この記事では、キャリアの棚卸しとは何かを整理し、経験・スキル・価値観の3軸を使った具体的な方法をお伝えします。転職を考えているかどうかに関わらず、今の自分を知るための一歩として読んでいただければと思います。
「キャリアの棚卸し」という言葉を聞いたことはあるけれど
転職活動のときや、上司との面談のときに「キャリアの棚卸し」という言葉を耳にすることがあります。でも、改めて「それって何をすることなの?」と聞かれると、答えに詰まる方が多い。
キャリアの棚卸しとは、自分がこれまでやってきたこと、できること、大切にしてきたことを一度整理し直す作業です。履歴書を書くことでも、自慢できる実績をまとめることでもありません。
あくまでも「自分を知るための整理」です。それをすることで、次にどこへ向かいたいのかが、少しずつ見えてきます。
なぜ7割の人が「できていない」と言うのか
多くの人がキャリアの棚卸しを後回しにする理由は、だいたい3つに集約されます。
「今さら」という感覚がある
ある程度キャリアを積んでくると、「もう方向性は決まっている」という感覚が生まれやすい。変えられないと思っているから、振り返ることに意味を見いだしにくくなります。
でも実際には、棚卸しをすることで「自分が思っていた以上にできることがある」と気づくケースは多い。
やり方がわからない
「自己分析」という言葉は知っているけれど、社会人になってから改めてどうやるのかを学ぶ機会はほとんどありません。手が動かないのは、意欲の問題ではなく方法論の問題であることが多いです。
向き合うのが怖い
「棚卸しをして、何も残らなかったらどうしよう」という不安を感じる人もいます。これは自然な感覚ですが、実際には「何もない」という結果になることはほぼありません。どんなキャリアにも、整理すれば見えてくるものがあります。
キャリアの棚卸しとは何か|3つの整理軸
棚卸しを難しく考えなくても大丈夫です。次の3つの軸で整理するだけで、自分のキャリアの輪郭が見えてきます(参考文献※2)。
軸1:経験(やってきたこと)
これまでの仕事で担ってきた役割や業務を時系列で振り返ります。職種や会社名だけでなく、「どんな状況で」「何を任されて」「どう対応したか」という具体的な場面を思い出すことが大切です。
「たいした経験はない」と思っている人でも、書き出してみると意外と多くの場面が出てきます。
軸2:スキル(できること)
経験の中から「自分が得意なこと」「他の人より苦にならないこと」を拾い出します。専門的な技術だけでなく、「人の話を整理するのが得意」「複数のことを同時に進められる」といった資質も立派なスキルです。
軸3:価値観(大切にしてきたこと)
「どんな仕事をしているとき、やりがいを感じたか」「逆に、何があると消耗するか」を振り返ります。これは転職の軸にもなりますが、それ以上に「自分がどんな環境や関係性を必要としているか」を知るための整理です。
転職×自己分析|やりたいことがわからない時の3つの問いでは、この価値観の整理をさらに深めるための問いを紹介しています。
棚卸しをすると何が変わるのか
キャリアの棚卸しをした後、すぐに何かが劇的に変わるわけではありません。ただ、次のような変化が起きやすくなります。
「なんとなく不安」が具体的な問いに変わる
漠然と「このままでいいのか」と感じていたものが、「自分は何に満足していて、何が足りていないのか」という具体的な問いになる。問いが具体的になると、向き合い方も変わります。
次の選択肢が自分ごとになる
転職するかどうか、今の仕事を続けるかどうか、どんなスキルを磨くか。こうした選択が、他人の評価や世間の基準ではなく、自分の経験と価値観から考えられるようになります。
望まぬ出向の辛さを乗り越えた「キャリアの再設計」3ステップでは、実際にキャリアを見直した経験をもとに、再設計の具体的なステップを紹介しています。あわせて読んでいただければ、棚卸しの先のイメージが広がるかもしれません。
今日からできる小さな一歩
まずは15分、次の問いに答えを書いてみてください。上手にまとめようとしなくていいです。思いついたことをそのまま書き出すことが大切です。
①「これまでの仕事で、一番手応えを感じた場面はいつか」
規模や成果の大小は関係ありません。「あのとき、自分はちゃんとやれた」と思えた瞬間を一つ思い出してみてください。
②「仕事をしていて、時間を忘れるのはどんな作業か」
好き嫌いではなく、「苦にならない」「気がつくと没頭している」という感覚に注目してみてください。
③「今の仕事で、何があれば少し楽になるか」
不満の裏側には、自分が大切にしていることが隠れています。「何が嫌か」より「何があればいいか」という形で考えると、価値観が見えやすくなります。
キャリアへの不安の中には、自分では変えられない外部環境への不安も含まれていることがあります。そういった不安との切り分け方は、コントロールできない不安に消耗しないも参考にしてください。
まとめ
キャリアの棚卸しは、転職のための準備ではありません。今の自分を知るための、誰にでも必要な整理の作業です。
- 7割が「できていない」のは、意欲ではなく方法論の問題
- 経験・スキル・価値観の3軸で整理するだけでよい
- 棚卸しをすると、漠然とした不安が具体的な問いに変わる
- 次の選択肢が、他人の基準ではなく自分の軸から考えられるようになる
本シリーズの次の記事では、棚卸しの先にある「50代の転職は遅すぎるか?|年齢への恐怖と現実的なキャリアの再設計」について、年齢への不安も含めて整理します。
参考文献
※1 石山恒貴、パーソル総合研究所『会社人生を後悔しない 40代からの仕事術』ダイヤモンド社、2020年
→ 4,700人への調査をもとに、キャリアの棚卸しができていない層が多数を占めることを示し、その整理方法を解説した実践書。
※2 Maree JG. “Enhancing the sense of self of a mid-career woman through career construction counselling.” S Afr J Psychol. 2022.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8761374/
→ キャリア構成カウンセリングを通じて、経験・スキル・価値観の整理が自己感覚の再構築につながることを示した実証研究。
Barclay SR et al. “Career Transitions in Midlife: Exploring Meaning-Making.” PsychNexus. 2023.
→ キャリアの転換期が単なる職業変更を超え、アイデンティティや価値観の再構築を伴うプロセスであることを論じた研究。
大野萌子『50代からの幸せな働き方』ダイヤモンド社、2021年
→ 役職定年や異動に直面するミドル・シニア世代が、ジョブ・クラフティングを通じて仕事に意味を取り戻す方法を解説した実践書。


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