朝、会社に向かいながら、ふとこんな思いが浮かぶことがあります。
「自分は何のために働いているんだろう」
仕事への意欲がなくなったわけでも、体調が悪いわけでもない。でも、なぜか「意味」が見えなくなっている。
この感覚は、特定の年代だけに起きるものではありません。20代でも、30代でも、40代・50代でも、ふとした瞬間に「働く意味がわからなくなる」ことは誰にでもあります。
それは単なる働く意欲の喪失ではなく、自分の内側が何かを問い直し、仕事に意義を見出そうとしているサインかもしれません。
この記事では、「働く意味がわからなくなる」という感覚の正体を整理し、どう向き合えばよいかを一緒に考えていきます。
「働く意味がわからなくなった」は、珍しいことではない
「こんなことを考えるのは自分だけだろうか」と感じているとしたら、そんなことはありません。
仕事への意味や動機を見失う感覚は、心理学や産業・組織研究の分野でも広く取り上げられているテーマです。※1
一度は前向きに取り組んでいた仕事が、ある時期から急に「なんのためにやっているのか」と感じるようになる。そのきっかけは、環境の変化であることも、内側からじわじわと湧き上がってくることもあります。
「成長できている」「結果が出ている」だけでは満たされなくなるとき、人は自分が本当に大切にしたいことを問い始めます。それは危機ではなく、次のステージへ向かうための問い直しの始まりとも言えます。
なぜ「働く意味」を見失うのか|3つの心理的背景
「意味がわからなくなった」という感覚には、いくつかの心理的な背景があります。
時間の感覚が変わるとき
キャリアのある時点で、「このまま続けていいのか」という感覚が生まれることがあります。これは人生や仕事における「時間的展望の転換」と呼ばれる現象で、将来への可能性よりも、今の選択に意味があるかどうかを問い直したくなる心理の変化です。※2
転職、異動、昇進、ライフイベントなど、何らかの節目をきっかけに起きやすく、年齢とは必ずしも関係ありません。
役割の変化による自己イメージのズレ
環境や役割が変わったとき、それまでの「自分らしさ」が見えにくくなることがあります。現場から管理側へ、専門職から別の部署へ。変化の中で「自分は何者か」というアイデンティティが揺らぐことが、「働く意味がわからない」という感覚として現れることがあります。
積み上げてきたことへの問い直し
一定期間、真剣に取り組んできたからこそ、「ここまでやってきたのに、何かが足りない」と感じることがあります。努力の量と、感じる充実感が一致しなくなるとき、「なんのためにやってきたのか」という問いが浮かびやすくなります。
これは失敗ではなく、より深いレベルで「自分にとっての意味」を探し始めているサインです。
40代以降のキャリアにおいてこの問い直しをどう活かすかについては、石山恒貴・パーソル総合研究所「会社人生を後悔しない 40代からの仕事術」に詳しく論じられています。※4
この「何かわからないけれど不安」という感覚については、漠然とした不安が消えない理由と、正体を知るための3つの問いでも詳しく整理しています。
「意味がない」と感じるのは、見失ったのではなく問い直しのサイン
「意味を見失った」と「意味を問い直している」は、見え方が違うだけで同じ状態かもしれません。
「意味がわからない」という感覚は、今まで自分を動かしてきた動機が薄れてきたことを教えてくれています。それは同時に、「自分にとって本当に大切なことは何か」を再発見するタイミングが来たということでもある。
ライフシフト研究者のリンダ・グラットンは、人生100年時代においてキャリアは一本のレールではなく「マルチステージ」で設計するものだと述べています。問い直しを経て新しいステージへ進むことは、長い人生においてむしろ自然な流れです。※3
キャリア停滞を感じたとき「静かな退職」を選ぶ前に考えることでも触れているように、今の停滞感を「終わり」ではなく「問い直しの入口」として捉えることが、次の一歩につながっていきます。
また、ミドル世代のキャリア危機コラムでは、仕事への意味を問い直した経験から前を向くためのヒントを書いています。あわせて読んでいただければ、少し気持ちが楽になるかもしれません。
今日からできる小さな一歩
「意味がわからなくなった」と感じているとき、大きな決断や行動を急ぐ必要はありません。まず、この3つだけを試してみてください。
①「何に疲れているか」を書き出す
今感じている「意味のなさ」は、どこから来ているのかを紙に書いてみる。仕事の内容なのか、職場の環境なのか、人間関係なのか。ぼんやりした感覚を言葉にするだけで、少し整理がつきます。
②「かつて夢中になっていたこと」を思い出す
以前、時間を忘れて取り組んでいたことは何でしたか。それが今の仕事と重なる部分はあるか、ぼんやりと思い返してみるだけでよいです。
③「自分のキャリアを考える時間」を取ってみる
転職を決断しようということではなく、「自分のキャリアについて考える時間」を意図的に持つ。本シリーズの次の記事では、その整理の仕方(キャリアの棚卸し)をお伝えします。
働く意味への問いは、インフレや社会情勢など、自分では変えられない不安とつながっていることがあります。コントロールできない将来への向き合い方は、コントロールできない不安に消耗しないで詳しく解説しています。
働く意味の喪失が続くと、燃え尽き症候群へと移行する場合があります。燃え尽き症候群とは何かもあわせて参考にしてください。
まとめ
「働く意味がわからなくなった」という感覚は、あなたが弱いのでも、おかしいのでもありません。
それは、時間感覚の転換・役割変化・積み上げへの問い直しという3つの心理的背景が重なったときに誰にでも起きうる状態です。※1・※2
そしてそれは、次のステージへ向かうための問い直しの始まりでもあります。※3・※4
大きな答えを急がなくていい。まず、自分の感覚に気づくことから始めてください。
参考文献
※1 Steger MF, et al. (2012) “Measuring the presence of meaning in life: Exploring the meaning in life questionnaire.” Journal of Counseling Psychology. PMID:22786689 — 仕事や人生における「意味の感覚」の測定と心理的機能との関係を論じた研究。働く意味の喪失が広く研究対象となっていることを示している。
※2 Carstensen LL, et al. (1999) “Taking time seriously: A theory of socioemotional selectivity.” American Psychologist. PMID:10069160 — 時間的展望の変化が動機づけや意味の優先順位を変えることを示した社会情動的選択理論。キャリア上の「問い直し」が起きる心理的背景を説明している。
※3 リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット「ライフ・シフト|100年時代の人生戦略」東洋経済新報社 — 人生100年時代においてキャリアをマルチステージで設計することの重要性を論じた著作。問い直しを経た再設計が長期的に有効であることを示している。
※4 石山恒貴、パーソル総合研究所「会社人生を後悔しない 40代からの仕事術」ダイヤモンド社 — 40代のキャリアにおける意味の問い直しと、残りの会社人生を後悔しないための具体的な仕事術を論じた著作。積み上げてきたキャリアを活かした再設計の視点を提供している。ラン社員への調査をもとに、キャリアの問い直し期をどう乗り越えるかを解説した実践書。


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