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自己効力感とは何か|「どうせ自分には無理」という感覚の正体

自己効力感とは何か|「どうせ自分には無理」という感覚の正体 ストレスの話

やってみたいけど、どうせ自分には無理とか、新しいことに挑戦する前から、うまくいかない気がしてしまう。

そんなふうに感じることが続くとき、「自己効力感」が下がっている時かもしれません。

自己効力感は、自信とは少し違います。「自分はすごい」と思うことではなく、「自分はこれをやれる」という感覚のことです。この記事では、自己効力感とは何か、どのように私たちの行動や感情に影響するのかを整理します。


自己効力感とは何か

自己効力感(英: self-efficacy)とは、「ある行動を自分が実行できる」という確信のことです。心理学者のアルバート・バンデューラが1977年に提唱した概念で、「セルフ・エフィカシー」とも呼ばれます(Bandura, 1977)。

わかりやすく言えば、「これは自分にできる」という感覚です。

たとえば同じ仕事の締め切りに直面したとき、「なんとかなる、やってみよう」と思える人と、「どうせうまくいかない、自分には向いていない」と思ってしまう人では、取り組む姿勢も結果も変わってきます。その違いを生んでいるのが、自己効力感の差です。

自己効力感は、能力そのものとは別のものです。実際に優秀な人でも自己効力感が低いと行動をためらいます。逆に、まだ経験が浅くても自己効力感が高ければ、挑戦を続けて成長できます。「できるかどうか」ではなく、「できると信じているかどうか」が行動を左右します(バンデューラ, 1997)。


自己肯定感との違い

自己効力感と混同されやすいのが「自己肯定感」です。

自己効力感自己肯定感
意味「この行動が自分にできる」という確信「自分はここにいていい」という根本的な感覚
対象特定の行動・課題自分という存在全体
変化状況・分野によって変わる比較的安定している

自己肯定感が「自分という存在への信頼」だとすれば、自己効力感は「特定の行動に対する自信」です。

たとえば「料理は得意ではないけれど、この会議の進行はうまくできる」という感覚は、料理の自己効力感が低く、会議進行の自己効力感が高い状態です。分野によって異なるのが特徴です。


バンデューラが示した4つの情報源

バンデューラは、自己効力感が主に4つの情報源から育まれると述べています(Bandura, 1977)。

達成体験

自分でやり遂げた経験が、自己効力感を育てる最も強い源です。「一度できた」という事実が、次も「できるかもしれない」という感覚の土台になります。

小さな成功でも積み重なれば、確かな感覚に育っていきます。逆に失敗体験が続くと、「やっぱり自分には無理だ」という感覚が固まりやすくなります。

代理体験

「自分と似た人がやり遂げるのを見る」体験も、自己効力感を高めます。「あの人にできたなら、自分にもできるかもしれない」という感覚です。

ロールモデルを持つことや、他の人の挑戦を目にすることが、自分の可能性の認識を広げます。

言語的説得

「あなたならできる」という他者からの言葉も、自己効力感に影響します。ただし、根拠のない褒め言葉よりも、具体的な場面に基づいた言葉のほうが効果的です。

批判や否定的な言葉が続く環境では、自己効力感は育ちにくくなります。

生理的・感情的状態

緊張や不安といった身体の状態も、自己効力感の判断材料になります。「こんなに緊張しているのだから、きっとうまくいかない」と解釈してしまうことがありますが、同じ緊張を「集中している証拠だ」と受け取れるかどうかが鍵です。


自己効力感はなぜ大切なのか

研究では、自己効力感の高さは学業・仕事のパフォーマンス、ストレス耐性、継続的な行動と関連することが繰り返し示されています。

職場における自己効力感とパフォーマンスの関係を調べたメタ分析では、両者の間に中程度から強い正の関連が確認されています(Stajkovic & Luthans, 1998)。また、自己効力感が高い人は困難な状況でも粘り強く取り組み、失敗しても立て直しやすいことも示されています。

逆に自己効力感が低いと、挑戦を避ける、すぐに諦める、不安が高まりやすいといった影響が出てきます。「どうせ無理」という感覚は、行動の前に行動を止めてしまうのです。


「どうせ自分には無理」という感覚との関係

この感覚は、自己効力感の低さそのものです。

注目してほしいのは、この感覚が「事実」ではないということです。自己効力感は過去の体験、周囲からの言葉、心身の状態によって形成されます。本当はできる力があっても、「できない」と感じてしまうことはよくあります。

また、「どうせ自分には無理」という思考は、思考の歪みと深く関わっています。先読みの誤り(きっとうまくいかない)やレッテル貼り(自分はそういうタイプだ)が、自己効力感をさらに低下させるパターンがあります。

「自分に価値がない」という感覚を持っている方にとっては、自己効力感の低さと無価値感が重なり合っていることも多くあります。それぞれは似て非なるものですが、両方から少しずつほぐしていくことが大切です。


今日からできる小さな一歩

  • 「できた」を1つ探す: 今日、どんなに小さくても「できたこと」を1つ書き出してみる。自己効力感は達成体験から育ちます。「今日も普通に過ごした」でも構いません。
  • 「どうせ無理」という言葉に気づく: その言葉が浮かんだとき、「これは事実か、それとも解釈か」と一度だけ問いかけてみる。止めなくていい。ただ気づくだけで構いません。
  • 自分と似た誰かの話を聞く: 同じような悩みを持っていた人が少しずつ前進している話に触れてみる。代理体験は、「もしかして自分にも」という感覚の芽になります。

まとめ

  • 自己効力感とは「この行動が自分にできる」という確信のこと(バンデューラ, 1977)
  • 自己肯定感とは異なり、分野ごとに高低があり、変化させることができる
  • 達成体験・代理体験・言語的説得・生理的状態の4つが自己効力感を育てる
  • 自己効力感が高いほど、挑戦・粘り強さ・パフォーマンスに好影響がある
  • 「どうせ無理」という感覚は事実ではなく、過去の体験や解釈のパターンから来ている

「自分にはできない」という感覚は、能力の証明ではありません。これまでの経験の積み重ねから生まれた、脳の解釈のパターンです。その解釈は、小さな体験の積み重ねによって、少しずつ書き換えることができます。

自分を大切にすることの意味や、自己評価を取り戻すための考え方も、このシリーズと合わせてご覧いただくと、自己効力感を育てるための土台が見えてきます。


このシリーズの他の記事

「どうせ自分には無理」という感覚を、自己効力感という視点から掘り下げるシリーズです。

シリーズの根底にある認知の歪みについては、思考の歪みがストレスを生み出すで詳しく扱っています。


参考文献

Bandura A. “Self-efficacy: Toward a Unifying Theory of Behavioral Change.” Psychological Review. 1977;84(2):191-215.
自己効力感の概念を初めて体系的に提唱し、行動変容における「できるという確信」の中心的役割と、達成体験・代理体験・言語的説得・生理的状態の4つの情報源を示した。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/847061/

Stajkovic AD, Luthans F. “Self-efficacy and Work-related Performance: A Meta-analysis.” Psychological Bulletin. 1998;124(2):240-261.
114の研究を対象としたメタ分析で、職場における自己効力感と業績の間に中程度から強い正の関連(r=.38)があることを示した。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9729908/

Bandura A, Locke EA. “Negative Self-efficacy and Goal Effects Revisited.” Journal of Applied Psychology. 2003;88(1):87-99.
自己効力感が低いと目標設定や努力量・粘り強さが低下し、パフォーマンスに負の影響をもたらすことを実験的に再検証した。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12675397/

アルバート・バンデューラ著、本明寛・野口京子監訳『激動社会の中の自己効力』金子書房、1997年。
自己効力感理論の提唱者バンデューラ自身による包括的な著作。達成・健康・教育・組織など多領域への応用を論じる。

キャロル・S・ドゥエック著、今西康子訳『マインドセット「やればできる!」の研究』草思社、2016年。
「しなやかなマインドセット(成長志向)」と「硬直したマインドセット(固定志向)」の違いを研究し、自己効力感を育てる思考の土台を示した。

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