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自己効力感が低くなる原因|「自分にはできない」はどこから来るのか

自己効力感が低くなる原因|「自分にはできない」はどこから来るのか ストレスの話

「なぜ自分はいつも、やる前から諦めてしまうのだろう」

「同じような状況でも、あの人はうまくやれているのに、自分にはできない気がする」

自己効力感の低さは、努力不足でも、意志の弱さでもありません。それは、これまでの体験や環境、思考のパターンが積み重なって形成されたものです。

この記事では、自己効力感がなぜ低くなるのか、その背景にある仕組みを整理します。「なぜ自分はこうなのか」を理解することが、少しずつ変わっていくための入り口になります。


自己効力感が低い状態とはどんな状態か

まず、自己効力感が低い状態がどういうものかを確認しておきましょう。

自己効力感とは、「この行動が自分にできる」という確信のことです(Bandura, 1977)。この感覚が低いと、行動を起こす前から「どうせ無理」「うまくいかない」という思考が先に立ちます。

具体的には、こんな状態として現れることがあります。

  • 新しいことに挑戦しようとすると、強い不安や抵抗感が出る
  • 少し難しそうなことは最初から諦める
  • 失敗したとき、「やっぱり自分はダメだ」と全体に広げて考えてしまう
  • 褒められても「どうせお世辞だ」「たまたまだ」と受け取れない
  • 周囲と比べては「自分は劣っている」と感じる

これらは性格の問題ではなく、自己効力感という「自分への信頼の感覚」が育ちにくい状況があったことの表れです。


自己効力感が低くなる主な原因

失敗体験が積み重なったとき

自己効力感を育てる最も強い源は「達成体験」、つまり自分でやり遂げた経験です(Bandura, 1977)。裏を返せば、失敗体験が続くと、自己効力感は低下しやすくなります。

ただし、失敗そのものが問題なのではありません。失敗したときに「自分はできない人間だ」と結論づける解釈が、自己効力感を傷つけます。

一度の失敗が「自分はいつも失敗する」という確信に変わり、次の挑戦を避けるようになる。挑戦を避けると、達成体験が得られない。その結果、さらに自己効力感が下がる。このループが静かに続いていくことがあります。

幼少期や学校・職場で「やってみたけどうまくいかなかった」という体験が続いた場合、このパターンが身についていることがあります。

批判や否定が続く環境

バンデューラの4つの情報源のひとつに「言語的説得」があります。「あなたならできる」という言葉が自己効力感を高めるのと同様に、「どうせあなたには無理」「また失敗した」「なぜそんなこともできないのか」という言葉の積み重ねは、自己効力感を低下させます。

これは親や教師、職場の上司など、影響力を持つ人物からの言葉が特に強く作用します。本人は「事実を言っているだけ」のつもりでも、受け取る側には「自分にはできない」という確信として残っていくことがあります(バンデューラ, 1997)。

また、批判や否定がなくても、「何をやっても反応がない」「努力を見てもらえない」という環境も、自己効力感の発達を妨げることがあります。

「どうせ無理」が思考の癖になるとき

自己効力感の低さは、思考の歪みと深く結びついています。

特に関わりが深いのは以下のパターンです。

先読みの誤り(fortune-teller error): 「きっとうまくいかない」と、まだ起きていないことを悪い結果と決めつける。挑戦する前から「失敗する自分」を想定してしまう。

レッテル貼り(labeling): 一度の失敗から「自分はそういう人間だ」と全体に広げてしまう。「うまくいかなかった」ではなく「自分はダメな人間だ」という結論になる。

プラスの否定(disqualifying the positive): うまくいったことを「たまたまだ」「ラッキーだっただけ」と打ち消してしまう。達成体験があっても、それが自己効力感に蓄積されていかない。

これらの思考が習慣になると、実際には「できた」体験があっても、それが自己効力感に積み上がっていきません。自己効力感の情報源があっても、それを受け取れない状態になっているとも言えます。

自己卑下の癖責められている気がする感覚を持っている方は、このパターンが重なっていることが多くあります。

幼少期に身についた安全戦略

幼い頃、批判や失敗への恐怖から「最初からやらなければ傷つかない」という戦略を学んだことがあります。挑戦しないことで、失敗のリスクを避けるという自己防衛のパターンです。

当時は環境を生き抜くための知恵でした。ただ、その戦略が大人になっても続いていると、「やらない」ことで達成体験が生まれず、自己効力感が育ちにくい状態が続きます。

「やりたい気持ちはあるのに、なぜか動けない」という感覚は、この安全戦略が今も作動しているサインかもしれません。


自己効力感の低さと他の感覚のつながり

自己効力感の低さは、他の感覚とも重なりやすいです。

「自分に価値がない」という無価値感は、自己効力感の低さと似て非なるものですが、両方が重なっていることがあります。無価値感が「自分という存在への不信」だとすれば、自己効力感の低さは「自分の行動への不信」です。どちらも、過去の体験と解釈のパターンから形成されます。

また、自己効力感が低い状態は、不安やストレスを増幅させやすいことも研究で示されています(Clark & Beck, 2010)。「できない」という確信が先に立つと、挑戦のたびに強い不安を感じやすくなります。その不安が「やっぱり自分には向いていない証拠だ」という解釈につながり、さらに自己効力感を下げるという悪循環が起きます。


今日からできる小さな一歩

  • 「なぜできないか」より「なぜこう思うようになったか」を問う: 「自分には無理」という感覚が浮かんだとき、「これはどこから来ているのか」と少し立ち止まってみる。原因を知るだけで、その感覚との距離が少し変わります。
  • 批判的な声の出どころを探す: 頭の中の「どうせ無理」という声は、誰かの言葉が内側に残っているケースがあります。「これは自分の声か、それとも昔誰かに言われた言葉か」と問いかけてみてください。
  • できなかったことではなく、やってみたことに目を向ける: 結果がどうであれ、「挑戦しようとした自分」がいたはずです。そこに気づくことが、達成体験の積み直しの入り口になります。

まとめ

  • 自己効力感が低くなる主な原因は、失敗体験の積み重ね・批判的な環境・思考の歪み・幼少期の安全戦略の4つ
  • 失敗そのものより、「自分はできない」という解釈のパターンが自己効力感を傷つける
  • 思考の歪み(先読みの誤り・レッテル貼り・プラスの否定)が重なると、達成体験があっても積み上がらない
  • 「やらないことで傷つかない」という安全戦略が、大人になっても続いていることがある
  • 自己効力感の低さは、努力不足ではなく、これまでの体験と環境が積み重なったもの

「なぜ自分はこうなのか」に気づくことは、批判でも諦めでもありません。これまでの体験が今の自分を作っているのだと理解することが、少しずつ手放していくための、静かな出発点になります。

自己効力感を高める具体的な方法は、次の記事「自己効力感を高める4つの方法」で扱います。


このシリーズの他の記事

「どうせ自分には無理」という感覚を、自己効力感という視点から掘り下げるシリーズです。

シリーズの根底にある認知の歪みについては、思考の歪みがストレスを生み出すで詳しく扱っています。


参考文献

Bandura A. “Self-efficacy: Toward a Unifying Theory of Behavioral Change.” Psychological Review. 1977;84(2):191-215.
自己効力感の4つの情報源(達成体験・代理体験・言語的説得・生理的状態)を提唱し、それぞれが欠けたり逆方向に働くとき自己効力感が低下する機序を示した。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/847061/

Bandura A, Locke EA. “Negative Self-efficacy and Goal Effects Revisited.” Journal of Applied Psychology. 2003;88(1):87-99.
自己効力感が低い状態では目標設定・努力量・粘り強さのすべてが低下し、パフォーマンスに連鎖的な負の影響をもたらすことを実験的に示した。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12675397/

Clark DA, Beck AT. “Cognitive Theory and Therapy of Anxiety and Depression: Convergence with Neurobiological Findings.” Trends in Cognitive Sciences. 2010;14(9):418-424.
認知の歪みが扁桃体の過活動と前頭葉の認知制御低下に対応し、不安・抑うつを強化するサイクルを示した。自己効力感を低下させる思考パターンの神経科学的背景として参照。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20655801/

アルバート・バンデューラ著、本明寛・野口京子監訳『激動社会の中の自己効力』金子書房、1997年。
家族・学校・職場などの社会的環境が自己効力感の発達に与える影響を詳述。幼少期の体験と大人になってからの自己効力感の関係についての理論的基盤を提供する。

マーティン・セリグマン著、山村宜子訳『オプティミストはなぜ成功するか』講談社、1991年。
「学習性無力感」と楽観性・悲観性の形成メカニズムを解説。失敗体験が続くなかで「どうせ変わらない」という信念が育つ過程と、自己効力感の低下との接続を理解する上で参考になる。


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