「あの人とはいつもこうなる」と思いながら、また同じ展開になっていた。
謝られて許したはずなのに、また同じことをされる。助けようとしたのに、なぜか自分が傷ついている。「もうやめよう」と思っていたのに、また引き込まれていた。
わかっているのに、繰り返してしまう。この感覚はどこから来るのでしょうか。
前回の記事では、「OK/NOT OK」という4つの心理パターンを紹介しました。今回は、そのパターンがなぜ繰り返されるのか、そのメカニズムを掘り下げます。
鍵になるのは、「ストローク」と「心理的ゲーム」という二つの概念です。
承認が「もらえた気がしない」理由|ストロークとは何か
交流分析では、人が他者から受け取る承認の単位を「ストローク」と呼びます(※7)。言葉、表情、態度、視線。「あなたはここにいていい」と伝えるあらゆるサインがストロークです。
ストロークには大きく3種類あります。
ポジティブストロークは、「ありがとう」「あなたがいてよかった」という、気持ちが温かくなる承認です。
ネガティブストロークは、批判・怒り・非難など、痛みを伴う承認です。傷つきますが、「自分の存在を認識してもらえた」という感覚は生まれます。
そしてゼロストローク、つまり無視です。
ここで多くの人が「え?」と思います。「批判されるより無視のほうがまし」と感じている人もいるからです。
でも、交流分析の知見は逆のことを示しています。人はポジティブなストロークが得られないとき、ネガティブなストロークでもいいから求めようとする。それでも得られないとき、関係そのものへの希望を失っていく。ゼロストローク、つまり存在を無視されることが、最も深く人を傷つけるのです(※1)。
「怒鳴られたことより、ずっと無視されていたことのほうが今も引っかかっている」という記憶を持つ人は、このことを体で知っているはずです。
なぜストロークが足りないと「ゲーム」が始まるのか
ストロークが慢性的に不足すると、人は無意識のうちにストロークを求めて動き始めます。そのとき、しばしば「心理的ゲーム」と呼ばれるパターンが始まります。
心理的ゲームとは、エリック・バーンが発見した、無意識に繰り返される関係のやりとりのパターンです(※7)。「ゲーム」という言葉から楽しいものを想像するかもしれませんが、実際は逆です。ゲームは必ず「後味の悪さ」で終わります。お互いが傷ついて、関係がこじれていく。それでも繰り返してしまう。
なぜ繰り返されるのか。それは、ゲームの中で一時的にでもストロークが得られるからです。怒鳴り合いの末に謝罪される。助けようとして感謝される。犠牲者として同情される。形は違っても、「自分の存在を認識してもらった」という感覚が、ほんの一瞬生まれます。その一瞬が、ゲームをやめられなくさせます。
職場の人間関係でこのパターンが繰り返されやすいことは、医療従事者の対人ストレスを扱った研究でも確認されています(※1)。意識的ではなくても、関係のなかに「ゲーム」のやりとりが組み込まれていく様子が示されています。
3つのよくある「ゲーム」パターン
心理的ゲームの構造を理解する上で、「ドラマトライアングル」(Karpman Drama Triangle)は非常に役立つ枠組みです(※2)。
ドラマトライアングルには3つの役割があります。「迫害者」「救助者」「犠牲者」です。そして人はこの三角形の中で役割を交替しながら、同じ関係パターンを繰り返します。
以下に、よく見られる3つのゲームパターンを紹介します。
「また私が悪者になった」パターン
始まりは、誰かが不満や攻撃を向けてきた場面です。相手は迫害者の位置に立ち、あなたは犠牲者になります。あなたが反論すれば今度は立場が逆転し、あなたが迫害者になる。最後には「また私が悪者にされた」という感覚が残る。
このゲームは、どちらも「正しさを証明したい」というストローク欲求から始まっています。
「助けようとしたのに傷ついた」パターン
相手が困っていると感じて手を差し伸べる。助けようとする側は救助者の位置に立ちます。ところが相手はいつの間にか「でも」「だって」と反論し始め、救助者が攻撃される側に転落する。「こんなにしてあげたのに」という消耗が残ります。
このゲームの出発点には、「誰かに必要とされることでストロークを得たい」という動機があります(※3)。
「誰もわかってくれない」パターン
自分の苦しさを話す。相手が助言をくれる。「でもそれはちょっと違って」と返す。相手が別の助言をする。「そうじゃなくて」とまた返す。最終的に「やっぱり誰もわかってくれない」という結論で終わります。
これは、解決策ではなく「わかってほしい」というストロークを求めているゲームです。相手の助言が的外れなのではなく、欲しいものが「答え」ではなく「共感」だったのです。
「わかっているのにやめられない」のはなぜか
これら3つのパターンに共通しているのは、「理解している」だけでは止まらない、ということです。
研究では、ゲームのパターンが「関係の中に構造として埋め込まれている」ことが示されています(※3)。一人が変わろうとしても、相手がパターンを引き出し続ける。組み合わさった関係の構造ごと変えなければ、同じやりとりに引き戻されてしまいます。
日本社会においてストロークが構造的に不足しやすい状況については、前回の記事でも触れた太田肇の指摘が参考になります。「頑張って当たり前」「察して当然」という文脈では、ポジティブストロークが届きにくく、ゲームが発動しやすい土壌が生まれやすい(※4)。
こうしたゲームが職場で発動しやすい状況については、職場の毒性を扱ったシリーズでも詳しく解説しています。
今日からできる小さな一歩
ゲームを止めるために、相手を変えようとする必要はありません。相手がパターンを引き出しても、自分が乗らなければゲームは成立しないからです。
今日できることは、「あ、またこのパターンだ」と気づいた瞬間に、3秒だけ止まってみることです。
反射的に返す前に、3秒。それだけで、いつものゲームの流れに乗らない選択が生まれます。
諸富祥彦は、承認欲求から距離を置くことについて、「反応を止める一瞬をつくること」が最初の実践だと述べています(※5)。松村亜里も、「どろどろトライアングル」から外れるためには、まず「自分がどの位置にいるか」に気づくことが入口だと言います(※6)。
「やめよう」と思うのではなく、「気づく」だけでいい。それが、繰り返しから外れる最初の一歩です。
まとめ
この記事では、「また同じことが起きている」理由を、ストロークの欠乏と心理的ゲームという二つの概念で読み解きました。
人はストローク(承認)を必要としています。そして、ストロークが足りないとき、痛みを伴うやりとりを通じてでも承認を得ようとする。その無意識の動きが、心理的ゲームという繰り返しのパターンを生み出します。
ゲームのパターンは3つの役割(迫害者・救助者・犠牲者)の間を行き来しながら続きます。どの役割にいても、最後には傷つく。それでも繰り返されるのは、一時的にでもストロークが得られるからです。
止めるために必要なのは「理解」ではなく「気づきの一瞬」です。「またこのパターンだ」と名前をつけて、3秒止まる。それだけで、反射的な反応から少し距離を置けます。
次の記事(#221)では、パターンに気づいた先に、「OK/OK」な関係に向けて実際に何ができるかを扱います。
参考文献
※1 Wrzesniewski J, Bakker AB, Schaufeli WB. Interpersonal games as a method for doctors’ occupational stress. Psychiatria Polska. 2015;49(1):175-183. PMID: 25815622。職場における心理的ゲームが対人ストレスの調整手段として機能する様子を医療従事者の事例から分析した研究。
※2 Lac A, Donaldson CD. Development and validation of the Drama Triangle Scale: Are you a victim, rescuer, or persecutor? Journal of Interpersonal Violence. 2022;37(9-10):NP4057-NP4081. PMID: 32917106。ドラマトライアングルの3役割(犠牲者・救助者・迫害者)を測定するスケールを3つの独立サンプルで開発・検証した研究。
※3 Snowdon DA, Hau R, Leggat SG, Taylor NF. Gaming the system: using transactional analysis to explore dysfunctional processes in clinical supervision. Journal of Health Organization and Management. 2019;33(4):433-446. PMID: 31090442。臨床スーパービジョンにおける心理的ゲームの構造を交流分析の枠組みで分析し、関係の中に埋め込まれたゲームパターンの持続性を示した研究。
※4 太田肇「日本人の承認欲求―テレワークがさらした深層―」新潮新書、2022年。日本社会における承認(ストローク)の構造的欠乏と、それが個人の心理に与える影響を組織研究の視点から論じた一冊。
※5 諸富祥彦「”承認欲求”、捨ててみた」青春出版社、2022年。承認欲求に振り回される状態から解放されるための実践的ステップを、臨床心理士の視点から提示している。
※6 松村亜里「うまくいかない人間関係逆転の法則」すばる舎、2024年。繰り返される人間関係のこじれを「どろどろトライアングル」から「幸せトライアングル」へ反転させる方法を、ポジティブ心理学の知見をもとに解説している。
※7 Berne E. Games People Play: The Psychology of Human Relationships. Grove Press, 1964. ISBN: 978-0-345-41003-0。交流分析の創始者エリック・バーンが、人間関係の中で無意識に繰り返される「心理的ゲーム」のパターンを体系的に記述した原典。

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