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仕事で「自分には無理」が続くとき|キャリアと自己効力感

仕事で「自分には無理」が続くとき|キャリアと自己効力感 ストレスの話

「この仕事、自分には向いていないんじゃないか」

「頑張っても結果が出ない。もう自分には無理なのかもしれない」

仕事をしていると、こうした感覚が浮かんでくることがあります。最初は小さな疑問だったのに、気づけば毎朝そう思うようになっている。

この感覚の多くは、仕事における「自己効力感」の低さから来ています。能力の問題ではなく、積み重なった体験と環境が「自分には無理」という確信を作り上げているのです。この記事では、仕事とキャリアの文脈で自己効力感を掘り下げ、その感覚を少しずつほぐしていくための視点をお伝えします。


仕事における自己効力感とは

自己効力感とは、「この行動が自分にできる」という確信のことです(Bandura, 1977)。仕事の場面では、これが「この仕事をやり遂げられる」「この課題に対処できる」という感覚として現れます。

職場における自己効力感は、業務パフォーマンスと強い関連があることがメタ分析で示されています(Stajkovic & Luthans, 1998)。自己効力感が高い人は困難な仕事にも粘り強く取り組み、失敗しても立て直しやすい。逆に低いと、能力があっても挑戦を避け、小さな失敗でも「やっぱり自分には無理だ」と強く感じてしまいます。

重要なのは、仕事への自己効力感は「その職場・その役割・その状況」に応じて変化するということです。今の職場で「無理」と感じていても、それはあなたの能力の総量ではありません。


職場で自己効力感が低くなりやすい状況

成果を出しても評価されない環境

自己効力感を育てる最大の源は「達成体験」です(Bandura, 1977)。しかし、頑張っても評価されない、努力が見えていない、成果が当然視される職場では、達成体験が自己効力感に積み上がりにくくなります。

「やっても意味がない」という感覚は、能力の欠如ではなく、達成体験が正しく積み重なっていないサインです。成果を出しても報われない感覚に心当たりがある方は、このパターンが起きているかもしれません。

失敗が許されない職場文化

ミスを強く責める文化、失敗を引きずられる環境では、挑戦のたびに強い不安が伴います。その不安を「自分には向いていない証拠」と解釈してしまうと、挑戦を避けるようになり、達成体験がさらに得られなくなります。

バンデューラは、生理的・感情的な状態(緊張や不安)も自己効力感の情報源になると述べています(Bandura, 1977)。失敗が怖くて緊張するのは当然ですが、その緊張を「できない自分の証拠」として読み取る習慣が身につくと、自己効力感は下がり続けます。

ロールモデルがいない

「自分と似た立場から成功した人」を見ることで自己効力感は育まれます(代理体験)。しかし、自分のようなキャリアで成功している人が周囲にいない、年齢・性別・経歴が近いロールモデルが見当たらない環境では、「自分にもできるかもしれない」という感覚が生まれにくくなります(バンデューラ, 1997)。

ロールモデルの不在は、自分の可能性の認識を狭めてしまうことがあります。


キャリア自己効力感という考え方

仕事における自己効力感には、「キャリア自己効力感」という概念もあります。これは、キャリアに関する意思決定や行動(転職・異動・スキルアップ・目標設定など)を「自分でやれる」という確信のことです。

キャリア自己効力感が低いと、こうした状態が現れやすくなります。

  • 転職したいが、うまくいく気がしない
  • 自分のキャリアについて、考えはじめるとすぐ諦める
  • 「どうせ自分には選べない」という感覚で、流れに任せてしまう
  • 将来のことを考えると、不安が大きすぎて動けない

働く意味がわからなくなったときに感じる「何のためにやっているのかわからない」という感覚や、キャリアの停滞感も、キャリア自己効力感の低さと結びついていることがあります。


仕事の自己効力感を少しずつ取り戻すために

今の職場での「できたこと」を小さく記録する

評価されなくても、自分の中に「できた」という事実を積み重ねることはできます。会議で発言した、メールを丁寧に書いた、後輩に声をかけた。日常の小さな行動を記録することが、達成体験の積み直しになります。

キャリアの棚卸しの視点も有効です。今の職場での経験を「経験・スキル・価値観」の3軸で整理し直すと、「自分は何もできていない」という感覚が少し変わってくることがあります。

「向いていない」と「今の環境が合っていない」を区別する

「自分には無理」という感覚が、能力の問題なのか、環境との相性の問題なのかを一度分けて考えてみてください。

同じ人が職場を変えたことで、自己効力感が大きく回復するケースは少なくありません。転職が怖くて踏み出せないときに感じる「変化への恐怖」も、低い自己効力感が生み出していることがあります。「環境が合っていない」という可能性を頭に置いておくことで、「自分がダメだ」という結論への一直線を少し緩めることができます。

成長志向で「まだ途中」と捉える

「今できていない」ことを「永遠にできない」と解釈する習慣が、仕事への自己効力感を低下させます。ドゥエックの研究では、成長志向(しなやかなマインドセット)を持つ人は、失敗を能力の証明ではなく「まだ途中の状態」として捉えるため、自己効力感が維持されやすいことが示されています(ドゥエック, 2016)。

「できない」ではなく「まだできていない」という一語の違いが、思考の向きを変えます。


今日からできる小さな一歩

  • 今日「できた仕事」を1つ書き出す: 評価されたかどうかは問いません。「今日自分がやり遂げたこと」を1つだけ書く。それが職場での達成体験の積み直しになります。
  • 「向いていないのか、環境が合っていないのか」を書いて分けてみる: 「自分には無理」という感覚を、能力の問題と環境の問題に分けてみてください。分けて書くだけで、問題が少し具体的になります。
  • 自分と似たキャリアの人の話を1つ探す: 転職した人、部署を変えた人、遠回りして今の仕事を見つけた人。「自分と境遇が近い人」の話が、代理体験になります。

まとめ

  • 仕事での「無理」という感覚は、能力ではなく自己効力感の低さから来ていることが多い
  • 評価されない環境・失敗が許されない文化・ロールモデルの不在が、職場での自己効力感を下げやすい
  • キャリア自己効力感が低いと、転職・目標設定・意思決定への自信も失われやすい
  • 「向いていない」と「環境が合っていない」は別の問題として整理できる
  • 小さな達成の記録と、成長志向の視点が、自己効力感の土台を少しずつ立て直す

「自分には無理」という感覚は、その職場・その状況が生み出していることがあります。それはあなたの限界ではなく、今置かれている環境の中で形成された「解釈のパターン」です。少しずつ、その解釈を問い直していくことができます(セリグマン, 1991)。


このシリーズの他の記事

「どうせ自分には無理」という感覚を、自己効力感という視点から掘り下げるシリーズです。

シリーズの根底にある認知の歪みについては、思考の歪みがストレスを生み出すで詳しく扱っています。


参考文献

Bandura A. “Self-efficacy: Toward a Unifying Theory of Behavioral Change.” Psychological Review. 1977;84(2):191-215.
自己効力感の4つの情報源を提唱し、職場・キャリアを含むあらゆる場面での行動・努力・粘り強さへの影響を理論化した。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/847061/

Stajkovic AD, Luthans F. “Self-efficacy and Work-related Performance: A Meta-analysis.” Psychological Bulletin. 1998;124(2):240-261.
114の研究を対象としたメタ分析で、職場における自己効力感と業績の間に中程度から強い正の関連(r=.38)があることを示した。仕事の自己効力感が実際のパフォーマンスに影響する根拠として参照。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9729908/

Bandura A, Locke EA. “Negative Self-efficacy and Goal Effects Revisited.” Journal of Applied Psychology. 2003;88(1):87-99.
自己効力感が低い状態では、職場での目標設定・努力・粘り強さが低下し、パフォーマンスへの負の連鎖が生じることを実験的に示した。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12675397/

アルバート・バンデューラ著、本明寛・野口京子監訳『激動社会の中の自己効力』金子書房、1997年。
→ 組織・職場・キャリア発達の文脈における自己効力感の働きを詳論。ロールモデルの不在が自己効力感に与える影響についての理論的背景として参照。

キャロル・S・ドゥエック著、今西康子訳『マインドセット「やればできる!」の研究』草思社、2016年。
→ 成長志向(しなやかなマインドセット)が仕事での失敗や困難の受け取り方を変え、自己効力感の維持・向上につながることを豊富な研究で示した。

マーティン・セリグマン著、山村宜子訳『オプティミストはなぜ成功するか』講談社、1991年。
→ 学習性無力感の観点から、繰り返す失敗体験や否定的な環境が「変えられない」という信念を育てる仕組みを解説。職場環境と自己効力感の低下の関係を理解する上での補助的な参照。

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