前回の記事「アクションがあれば、リアクションがある」|人生を動かす作用・反作用の法則では、何もしなければ何も返ってこない、とお伝えしました。この記事では、その一つ目の柱、「まず動く」をもう少し掘り下げていきます。
「現実が変わらない」「毎日が同じことの繰り返しだ」。そう感じているとき、私たちはつい、変わらない原因を外側に探します。環境が悪い、運がない、タイミングが合わない、と。けれど、もしかすると理由はもっと近くにあるかもしれません。まだ、何も動かしていない。リアクション(返り)は、アクション(行動)の後にしか来ないからです。
責めているのではありません。動けないのには、ちゃんとした理由があります。その仕組みを知れば、重かった一歩が、少しだけ軽くなります。
「やる気が出たら動く」の落とし穴
多くの人が、「やる気が出たら動こう」と考えています。気分が乗ったら、準備が整ったら、自信がついたら。けれど、この順番には落とし穴があります。やる気は、待っていても、なかなかやって来ないのです。
実は、順番はその逆かもしれません。研究では、たとえ気が乗らなくても、小さな行動を起こすこと自体が、気分やウェルビーイングを後から押し上げることが示されています(※1)。動くから、気分が後からついてくる。やる気は、行動の燃料ではなく、行動の結果として生まれることが多いのです。
だとすれば、「やる気が出ないから動けない」のではなく、「動かないからやる気が出ない」のかもしれません。この順番を入れ替えるだけで、止まっていた歯車が回りはじめます。
小さく動くほど、「できる」が育つ
とはいえ、いきなり大きく動く必要はありません。むしろ、小さく動くことのほうが大切です。
人は、自分の行動が小さな成果につながる経験を重ねることで、「自分にはできる」という感覚を育てていきます。この感覚は自己効力感と呼ばれ、実際に何かをやり遂げた経験が、その何よりの土台になることがわかっています(※2)。頭で「できるはず」と考えるより、小さくても実際にやってみたという事実が、次の一歩を支えるのです。
そして、小さな行動には、複利のように積み重なる力があります。一回ごとの変化はわずかでも、続けるうちに、それは大きな差になっていきます(※4)。だから、最初の一歩は、ばかばかしいほど小さくて構いません。メールを一通送る、五分だけ取りかかる、一人に声をかける。その小ささこそが、続けられる秘訣です。
待っていても、リアクションは来ない
「誰かが気づいてくれたら」「いつか状況が変わったら」。そう願いながら待っている間、現実はたいてい静かなままです。
前回お伝えしたとおり、リアクションはアクションの後に来ます。受け身で待っているかぎり、返ってくるものはありません。たとえば、人間関係で距離を感じているとき、相手から歩み寄ってくれるのを待ち続けても、何も起きないことが多い。けれど、こちらから小さく声をかければ、そこで初めて、何らかの反応が生まれます。
不安で動けないときも同じです。不安は、頭の中で考え続けても消えません。むしろ、行動を起こすことで、少しずつ和らいでいきます。このあたりは不安は行動しないと消えない理由|行動が不安を減らすで詳しく扱っています。動くことは、現実を変えるだけでなく、あなたの中の不安にも働きかけてくれます。
「完璧に動く」より「とりあえず動く」
動けない理由のもう一つに、「ちゃんとやらなければ」という気持ちがあります。完璧な準備、完璧なタイミング、完璧なやり方。それを求めるほど、最初の一歩は遠のいていきます。
ここで思い出したいのは、アクションの価値は、うまくできたかどうかだけで決まるわけではない、ということです。自分の意思で、自分から動いたという事実そのものが、人の意欲と充足を支えます(※3)。たとえ結果が伴わなくても、「自分で動いた」という経験は、確かにあなたの中に残ります。
だから、「うまくやる」より「とりあえずやってみる」。失敗しても、それは「動いた人」だけが得られる結果です。動かなければ、成功も失敗も、何も起きません。一歩を踏み出す小さな勇気が、止まっていた現実に、最初の変化をもたらします(※5)。
今日からできる小さな一歩
今日試してほしいのは、ずっと「いつかやろう」と思っていたことを一つ選び、その「いちばん小さい最初の一歩」だけを、今日のうちにやってみることです。
たとえば「運動を始めたい」なら、靴を玄関に出すだけ。「あの人と話したい」なら、短いメッセージを一通送るだけ。「片づけたい」なら、机の上のものを一つだけ戻すだけ。ゴールではなく、その手前の、ばかばかしいほど小さな一歩で構いません。
大切なのは、やる気が出るのを待たないことです。動いてみてから、気分はあとからついてきます。返りがあるかどうかも、まだ気にしなくて大丈夫。今日はただ、止まっていた何かに、最初の力を一つ加えてみる。それだけで十分です。
まとめ
現実が変わらないとき、その理由は、まだアクションを起こしていないことにあるかもしれません。やる気は待っていても来ません。順番はむしろ逆で、小さく動くことが、気分も「できる」という感覚も、後から連れてきます。
待っているかぎり、リアクションは返ってきません。完璧を求めて立ち止まるより、とりあえず小さく動いてみること。自分の意思で一歩を踏み出したという事実そのものが、あなたを支えてくれます。
何も起きないのは、あなたに力がないからではなく、まだ最初の一投をしていないだけかもしれません。次の記事では、二つ目の柱、「返ってくる反応は相手のもので、コントロールはできない」という線引きについて見ていきます。
参考文献
※1: Mazzucchelli TG, Kane RT, Rees CS. Behavioral activation interventions for well-being: A meta-analysis. J Posit Psychol. 2010. PMID: 20539837
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20539837/
気が乗らなくても小さな行動を増やすこと(行動活性化)が、気分やウェルビーイングを後から押し上げることを示したメタ分析。
※2: Bandura A. Self-efficacy: toward a unifying theory of behavioral change. Psychol Rev. 1977. PMID: 847061
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/847061/
実際に行動してやり遂げた経験が、「自分にはできる」という自己効力感を育てる最も強い土台になることを示した、心理学の基礎理論。
※3: Ryan RM, Deci EL. Self-determination theory and the facilitation of intrinsic motivation, social development, and well-being. Am Psychol. 2000. PMID: 11392867
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11392867/
自分の意思で行動しているという自律性の感覚が、人の意欲と充足を支える基本的な要素であることを示した論文。
※4: ジェームズ・クリアー(牛原眞弓訳)『ジェームズ・クリアー式 複利で伸びる1つの習慣』パンローリング, 2019, ISBN: 9784775942154
小さな行動の積み重ねが、複利のように大きな変化を生むことを、習慣化の具体的な技術とともに解説した書籍。
※5: 岸見一郎・古賀史健『嫌われる勇気』ダイヤモンド社, 2013, ISBN: 9784478025819
結果や他者の評価を恐れず、自分の意思で一歩を踏み出す勇気の意義を、アドラー心理学の視点から示した書籍。


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