前回の記事何も起きないのは、何もしていないから|リアクションはアクションの後にしか来ないでは、まず小さく動くことの大切さをお伝えしました。今回は、二つ目の柱です。動いたあと、思うような反応が返ってこなかったとき、どう受け止めればいいのか。
勇気を出して声をかけたのに、そっけなくされた。誠実に向き合ったのに、わかってもらえなかった。良かれと思ってしたことが、裏目に出た。そんなとき、私たちはつい「自分のやり方が悪かったのだ」と、すべてを自分のせいにしてしまいます。
けれど、ここで大切な線引きがあります。あなたが出せるのは、アクションまで。それにどう反応するかは、相手の領域です。この記事では、返ってくるリアクションとの、健やかな距離の取り方を見ていきます。
アクションはあなたの課題、リアクションは相手の課題
物事を考えるとき、「これは誰の課題か」と切り分ける視点があります。自分の力でコントロールできることと、相手に委ねるしかないことを、分けて考える、という発想です(※4)。
この見方を、アクションとリアクションに当てはめてみましょう。どんなアクションを起こすかは、あなたの課題です。丁寧に伝える、誠実に向き合う、勇気を出して一歩を踏み出す。ここまでは、あなたがコントロールできます。
けれど、それを受け取った相手が、どう感じ、どう反応するか。これは相手の課題です。相手の価値観、その日の機嫌、過去の経験。あなたには手の届かない要素が、相手の反応を形づくっています。自分の課題と相手の課題を切り分けられると、返ってくる反応に振り回される度合いが、ぐっと減っていきます。
コントロールできることに、力を注ぐ
人は、自分の人生の出来事を「自分でコントロールできる」と感じているか、それとも「外側の力で決まる」と感じているかで、ストレスへの強さが変わってきます(※1)。
ここで陥りやすいのが、コントロールできないこと(相手の反応)に力を注ぎすぎて、消耗してしまうことです。「どうすればあの人は変わってくれるか」「なぜわかってくれないのか」。そこに意識を集中させるほど、苦しくなります。なぜなら、それはあなたの手の外にあるからです。
だからこそ、力の注ぎ先を意識的に切り替えることが大切です。コントロールできない相手の反応ではなく、コントロールできる自分のアクションへ。「相手をどう変えるか」ではなく「自分は次に何をするか」へ。注意の向け先を変えるだけで、同じ状況でも、ずいぶん楽に立てるようになります。相手の反応が気になって消耗してしまう人は人の反応が気になって消耗する人へ|読みすぎる心理と抜け出す視点もあわせてどうぞ。
相手の反応は、あなたのせいだけではない
ここで、はっきりとお伝えしたいことがあります。返ってきた反応が悪いものだったとしても、それはあなたのせいだけではありません。
私たちには、相手の行動の原因を、状況や相手自身の事情よりも、「自分との関係」に結びつけて考えてしまう傾向があります。けれど実際には、相手の不機嫌や冷たさには、その人自身の性格、体調、別の場所で起きた出来事など、あなたとは無関係な要因が大きく関わっていることがよくあります(※2)。
そして何より大切なこと。理不尽な攻撃、ハラスメント、明らかに度を越した反応。これらは、あなたのアクションへの正当な「反作用」ではありません。あなたが穏やかに接したのに、相手が一方的にぶつけてきた感情まで、あなたが引き受ける必要はないのです。「アクションには相応のリアクションがある」という考えは、自分の行動を見直すためのものであって、相手の理不尽まで自分の責任にするためのものではありません。ここを取り違えないことが、自分を守るうえでとても大切です。相手との距離をどう設計するかは境界線(バウンダリー)がないと消耗し続ける|苦手な人との距離を設計するための全体像で扱っています。
見返りを手放すと、動き続けられる
返ってくる反応をコントロールしようとすると、もう一つ苦しいことが起きます。「これだけやったのだから、これくらい返ってくるはず」という見返りへの期待です。
期待した反応が返らないと、人は裏切られた気持ちになり、動くのをやめてしまいます。けれど、状況に応じて、思いどおりにならない現実を受け入れられる心の柔軟さは、心の健康の土台になることがわかっています(※3)。返りを握りしめるのではなく、いったん手放す。すると、結果に一喜一憂せず、自分のできることを続けやすくなります。
これは、「何も期待するな」という冷たい話ではありません。「返ってきたら嬉しい、でも返らなくても、自分のアクションには意味がある」。そう思えると、他人の反応に自分の行動を人質に取られなくなります。他者の評価や反応を基準に動くのをやめることが、自由に動き続ける力になります(※5)。
今日からできる小さな一歩
今日試してほしいのは、最近モヤモヤした出来事を一つ思い出して、それを「自分のアクション」と「相手のリアクション」に分けて書き出してみることです。
紙に線を引いて、左に「自分がした行動(コントロールできたこと)」、右に「相手の反応(コントロールできなかったこと)」を書きます。たとえば左に「勇気を出して相談した」、右に「相手が忙しそうで冷たかった」。
書き分けてみると、自分が責めていた部分の多くが、実は右側(相手の領域)にあったことに気づくかもしれません。右側のことは、手放して大丈夫です。あなたにできたのは左側まで。そして左側のアクションを起こせた自分を、まず認めてあげてください。それが、反応に振り回されずに動き続けるための、確かな足場になります。
まとめ
動いたあとに返ってくるリアクションは、相手の領域にあり、あなたにはコントロールできません。アクションはあなたの課題、リアクションは相手の課題。この線を引けると、返ってくる反応に振り回されにくくなります。
相手の反応には、あなたとは無関係な事情が大きく関わっています。とりわけ、理不尽な攻撃やハラスメントまで、自分のせいにする必要はありません。そして、見返りを手放せると、結果に左右されずに、自分のアクションを続けられるようになります。
コントロールできない相手の反応ではなく、コントロールできる自分の行動へ。力の向け先を変えること。それが、このシリーズが伝えたい、健やかな距離の取り方です。次の記事では最終回として、悪い反応の連鎖を断ち、良い種をまく方法を見ていきます。
参考文献
※1: Rotter JB. Generalized expectancies for internal versus external control of reinforcement. Psychol Monogr. 1966. PMID: 5340840
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/5340840/
出来事を自分でコントロールできると感じるか外的な力で決まると感じるか(統制の所在)が、人の適応やストレスへの強さに関わることを示した、心理学の基礎概念。
※2: Gilbert DT, Malone PS. The correspondence bias. Psychol Bull. 1995. PMID: 7870861
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/7870861/
人が他者の行動の原因を、その人の置かれた状況より性質や自分との関係に偏って帰属しやすいことを示した論文。相手の反応を過度に自分のせいと捉えがちな傾向の裏づけ。
※3: Kashdan TB, Rottenberg J. Psychological flexibility as a fundamental aspect of health. Clin Psychol Rev. 2010. PMID: 21151705
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21151705/
思いどおりにならない現実を受け入れ、状況に応じて考えや行動を調整できる心理的柔軟性が、心の健康の土台になることを論じたレビュー論文。
※4: 岸見一郎・古賀史健『嫌われる勇気』ダイヤモンド社, 2013, ISBN: 9784478025819
自分の課題と他者の課題を切り分け、相手の反応に振り回されず自分の行動に集中する「課題の分離」の考え方を示した書籍。
※5: 鴻上尚史『「空気」を読んでも従わない 生き苦しさからラクになる』岩波書店, 2019, ISBN: 9784005008933
他者の反応や評価、その場の空気に振り回されず、自分の判断で動くための視点を示した書籍。


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