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組織の成長と硬直性|柔軟性と引き換えに硬直性が増すという必然

組織の成長と硬直性|柔軟性と引き換えに硬直性が増すという必然 職場の話

「どうして、この会社はこんなに融通が利かないんだろう」。前例のない提案は通らず、少し変えるだけでも何段階もの承認が要る。小さかった頃は、もっと自由に動けたはずなのに。そんなもどかしさを感じている人は、少なくないはずです。

その硬さを、「経営陣が保守的だから」「うちの会社が特別ダメだから」と考えたくなるかもしれません。けれど、話はもう少し構造的です。この記事でお伝えしたいのは、組織は成長するほど、柔軟性と引き換えに硬直性を増していく、そしてそれはほぼ避けがたい、という見方です。

これは、あなたの職場が悪いという話ではありません。組織が大きくなるとはどういうことか、その必然を理解すると、日々のもどかしさの見え方が変わってきます。


小さい組織は柔軟で、大きくなるほど硬くなる

まず、多くの人が経験的に知っていることから始めましょう。数人で始めた集まりは、身軽です。思いついたことをすぐ試せるし、ルールも最小限で、その場の判断で動けます。

ところが、人数が増え、組織が大きくなるにつれて、様子が変わってきます。ルールが増え、手順が決まり、承認の段階が積み重なる。同じことをするのにも、時間と手続きがかかるようになる。これは特定の会社に限った話ではなく、組織が成長するときに、広く見られる変化です。

なぜ、こうなるのでしょうか。それは、硬直化が、成長そのものの副産物だからです。


なぜ成長が硬直を生むのか|人が増えると「調整」が要る

組織が大きくなると、そこに関わる人の数が増えます。人が増えれば、「認識のすり合わせ」や「足並みをそろえる」ための手間、つまり調整のコストが跳ね上がります。

数人なら、口頭のひと言で伝わったことも、数百人になれば、そうはいきません。バラバラに動けば、品質も方向性も崩れます。そこで、誰がやっても同じ結果になるように、手順を標準化し、ルールを明文化し、判断の基準を決めます。これは、混乱を防ぎ、大人数で足並みをそろえるための、合理的な対応です。

さらに、人にはもともと、あいまいさを嫌い、はっきりした基準や答えを求める傾向があります(※1)。組織が大きく複雑になるほど、この「確実さを求める心」が、より多くのルールや前例を生んでいきます。硬直化は、誰かの悪意ではなく、大勢で動くための必要から生まれるのです。


硬直は「信頼性」の代償でもある

もう一つ、見落とされがちな点があります。大きな組織は、社会や取引先から、「安定して、同じ品質を、確実に提供すること」を期待されます。この信頼に応えるには、いつ誰がやっても再現できる仕組みが要ります。

組織論の古典的な研究では、組織は信頼性と説明責任を求められるほど、行動を再現可能な形に固定しようとし、その結果として変わりにくさ、すなわち構造的な慣性を強めていくことが論じられています(※2)。つまり、硬直性は、信頼性と引き換えに手に入るものだということです。

裏を返せば、柔軟でころころ変わる組織は、身軽である一方、安定や再現性の面では頼りなく見えることもあります。硬さと信頼性は、コインの裏表なのです。


柔軟と硬直は、トレードオフの関係にある

ここまでをまとめると、組織は「柔軟に新しいことを試す力」と「安定して同じことを回す力」の、両方を同時に高く保つのが難しい、ということが見えてきます。

組織学習の研究では、新しい可能性を探る活動と、既存のやり方を磨き込む活動は、限られた資源を奪い合う関係にあり、両立が難しいことが指摘されています(※3)。成長して規模を追う組織は、どうしても後者、つまり「確実に回す」方向に重心を移していきます。その結果、探る力、変わる力が相対的に弱まっていくのです。

しかも、人が増えるほど、多数派と違う動きには居心地の悪さがつきまとい(※4)、変化には「今あるものを失うかもしれない」という損失への不安もついてまわります(※5)。組織のメンバー一人ひとりの心理も、変化を鈍らせる方向に働きます。だから、成長した組織が硬くなるのは、構造と心理の両面から見て、避けがたい流れなのです。


だから、硬直そのものは「悪」ではない

こうして見ると、硬直性を一方的に「悪いもの」と決めつけるのは、正確ではないとわかります。

ルールが一貫していることは、公平さや予測可能性を生みます。手順が決まっていることは、特定の誰かに依存せず、新しい人でも仕事を回せることを意味します。判断の基準があることは、いちいち悩まずにすむ効率にもつながります。硬直性には、安定という確かな価値があるのです。仕組みが弱すぎて個人が消耗する、その逆の問題についてはなぜ、この職場はいつまでも回らないのか|「仕組みの不在」が個人を消耗させる構造で扱っています。硬すぎても、緩すぎても、それぞれのつらさがある、ということです。

問題は、硬直性そのものではなく、その「度合い」と、あなたとの「相性」です。必要な安定を超えて、形だけ残った前例が人を縛るとき、硬直性は害に転じます。前例や常識を「絶対の正しさ」ではなく「一つの前提」として見直す視点は常識から自由になる|自分の前提を選び直すも参考になります。


今日からできる小さな一歩

この「必然」を知ることには、実用的な意味があります。今日試してほしいのは、職場の硬さに直面したとき、その意味づけを一つ変えてみることです。

「なぜ、こんなに融通が利かないんだ」と感じたら、こう言い換えてみてください。「これは、この組織が大きくなった代償なのかもしれない」。組織の硬直は、あなた一人の努力で変えられるものではなく、多くの場合、成長に伴う構造的なものです。それがわかると、「変えられないこと」に力を注いで消耗するのを、やめられます。

そのうえで、静かに考えてみてください。自分は、安定と引き換えの硬さを受け入れられるタイプか。それとも、多少不安定でも、柔軟に動ける環境のほうが合うタイプか。硬直を憎むのではなく、自分との相性を見極める。それが、身の置き方を選ぶ手がかりになります。


まとめ

組織は成長するほど、柔軟性と引き換えに硬直性を増していきます。人が増えれば調整のコストが跳ね上がり、標準化とルールが必要になる。信頼性を求められるほど、行動は再現可能な形に固定され、変わりにくくなる。そして、探る力と回す力はトレードオフの関係にあり、規模を追う組織は「確実に回す」ほうへ傾いていく。これは、構造と心理の両面から見て、避けがたい流れです。

だからこそ、硬直性そのものを悪と決めつける必要はありません。それは安定という価値の裏返しでもあります。大切なのは、その度合いと、自分との相性を見極めること。組織の硬さを、個人の責任や悪意の問題としてではなく、成長の必然として捉え直すこと。その視点が、もどかしさに飲まれず、自分の身の置き方を落ち着いて選ぶ土台になります。


参考文献

※1: Webster DM, Kruglanski AW. Individual differences in need for cognitive closure. J Pers Soc Psychol. 1994. PMID: 7815301
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/7815301/
人があいまいさを嫌い、はっきりした答えや基準を早く求める傾向(認知的完結欲求)を示した研究。組織がルールや前例を増やす心理的背景。

※2: Hannan MT, Freeman J. Structural inertia and organizational change. American Sociological Review. 1984;49(2):149-164.
組織が信頼性と説明責任を求められるほど、行動を再現可能な形に固定し、変わりにくさ(構造的慣性)を強めていくことを論じた組織論の古典的研究。

※3: March JG. Exploration and Exploitation in Organizational Learning. Organization Science. 1991;2(1):71-87. DOI: 10.1287/orsc.2.1.71
新しい可能性を探る活動と既存のやり方を磨き込む活動が、限られた資源を奪い合う関係にあり、両立が難しいことを示した組織学習の代表的研究。

※4: Berns GS et al. Neurobiological correlates of social conformity and independence during mental rotation. Biol Psychiatry. 2005. PMID: 15978553
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15978553/
人が多数派と違う動きをすることに、脳のレベルで居心地の悪さを感じることを示した研究。組織内で変化が起きにくい心理的要因。

※5: Tom SM, Fox CR, Trepel C, Poldrack RA. The neural basis of loss aversion in decision-making under risk. Science. 2007. PMID: 17255512
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17255512/
人が同じ大きさなら得よりも損を重く感じる「損失回避」を脳の働きから示した研究。変化に「失う不安」がつきまとう背景。

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