面接の終わりに、こう聞かれます。「最後に、何か質問はありますか」。
ここで「特にありません」と答えてしまう。あるいは、調べればわかることを当たり障りなく聞いて終わる。せっかくの時間を、なんとなくやり過ごしてしまった経験はないでしょうか。
このシリーズでは、面接はテストではなく相互調査の場であること、そして人・環境・自分との適合という3つの軸で観察することを整理してきました。最終回は、その調査をもっとも能動的に行える場面、逆質問の使い方です。
逆質問は、意欲をアピールするためのものではありません。職場の本音を引き出すための、あなたの調査時間です。
質問することは、失礼でも媚びでもない
「あれこれ聞いたら、生意気だと思われないか」。逆質問をためらう背景には、こんな不安があります。けれど、その心配はおそらく逆です。
ファンらの研究では、会話の中で質問を多くする人ほど、相手から好かれやすいことが示されています(Huang et al., 2017)※1。とくに、相手の答えを受けてさらに掘り下げる質問は、関心と誠実さの表れとして好意的に受け取られます。質問は、評価を下げるどころか、関係を温めるのです。
つまり逆質問は、調査でありながら、同時に好印象にもつながります。聞くことを恐れる理由は、思っているより少ないのです。
何を聞くかより、「どう聞くか」で本音が出る
逆質問の質を決めるのは、質問の内容そのものより、聞き方です。同じことを尋ねても、聞き方しだいで、返ってくるのが建前か本音かが変わります。
ヴァンエップスとハートの研究では、相手から正直な答えを引き出すには、望ましい答えをこちらが示唆しないこと(中立に聞く)、その話題について多少知っていると伝えること、そして相手を信頼している姿勢を示すこと、が有効だと整理されています(VanEpps & Hart, 2022)※2。
たとえば「残業は少ないですよね?」と聞けば、相手は「ええ、まあ」と肯定に誘導されます。これでは本音は出ません。「繁忙期は、皆さんどのくらいの時間まで働かれることが多いですか」と中立に聞けば、具体的な実態が返ってきやすくなります。誘導しない聞き方が、本音への入り口です。
一度で終わらせず、重ねて聞く
もうひとつ大切なのは、ひとつの質問で満足しないことです。最初の答えは、たいてい用意された建前だからです。
医療面談の研究ですが、ラングらは、患者に質問を重ねていくと、最初には語られなかった重要な懸念を多くの人が打ち明けるようになることを示しています(Lang et al., 2002)※3。これは面接にも通じます。一度目の答えはきれいに整っています。「もう少し具体的に教えていただけますか」「たとえば直近だと、どんなことがありましたか」と一歩踏み込むと、用意された言葉の奥にある実態が見えてきます。
掘り下げは、詰問ではありません。関心を持って、具体例を尋ねるだけです。前回の記事でお伝えした「答えの内容ではなく答え方を見る」も、この重ねる質問の中でこそ働きます。
3つの軸に対応する逆質問の例
前回整理した人・環境・適合の3軸に沿うと、逆質問は設計しやすくなります。
人(空気)を調べる:「チームの方は、困ったときにどなたに相談されることが多いですか」。相談先がすぐ出るか、言葉に詰まるかが、支え合いの空気を映します。
環境(構造)を調べる:「この役割では、どこまで自分で判断してよいのでしょうか」「評価は、どんな点を見て決まりますか」。裁量と評価の透明さが見えます。
適合(自分との相性)を調べる:「入社後、最初の半年でどんな状態になっていると良いと考えていますか」。期待される働き方が、自分の大事にしたいことと両立するかを確かめられます。
どれも「やる気を見せる質問」ではなく、「入社後の自分を守るための調査」です。逆質問は、意欲アピールじゃなくて、調査です。
「特にありません」は、最大の機会損失
逆質問を使わずに終えることは、調査の機会をまるごと手放すことです。相手があなたの問いにどう答えるか。その態度にこそ、求人票には書かれない情報が詰まっています。
答えを濁す、はぐらかす、不機嫌になる。それも立派なデータです。逆に、答えにくい質問にも誠実に向き合ってくれるなら、それは心理的安全性のある職場の手がかりかもしれません。北野唯我氏が説くように、転職で必要なのは自分なりの判断軸です※A。逆質問は、その軸に照らして相手を確かめる、あなたの権利の行使です。
今日からできる小さな一歩
- 3軸それぞれに「重ねて聞ける質問」を1セット用意する: 人・環境・適合に1問ずつ。さらに「具体的には?」と掘り下げる二の矢も決めておきます
- 「〜ですよね?」を「〜はどうですか」に書き換える: 誘導する閉じた聞き方を、中立な開いた聞き方に変えます。本音が返ってくる確率が上がります
- 相手の「答え方」を観察するつもりで臨む: 答えの中身だけでなく、誠実さ・具体性・態度を見ます。逆質問を、自分を売り込む場から相手を調べる場へ切り替えます
まとめ
逆質問は、意欲をアピールするための儀式ではありません。職場の本音を引き出し、入社後の自分を守るための調査です。
質問することは失礼ではなく、むしろ関係を温めます。誘導せず中立に聞けば本音が出やすく、重ねて聞けば建前の奥が見えてきます。そして「特にありません」は、その機会をまるごと手放す一言です。
このシリーズを通してお伝えしてきたのは、ひとつのことです。面接はテストではなく、相互に見極める場である。萎縮のしくみを知り、観察の軸を持ち、逆質問で能動的に調べる。その視点が、あなたを評価される側から、ともに選ぶ側へ戻してくれます。
なお、転職や職場選びの判断はあなたの状況によって異なります。この記事は特定の選択を勧めるものではなく、調査の視点を整理するものです。
このシリーズの記事一覧
転職面接を「相互に見極める場」として捉え直し、入社後のミスマッチを防ぐためのシリーズです。
- 転職面接はテストではない|「評価される側」という思い込みが消耗を生む
- なぜ面接で「ジャッジされる側」だと感じてしまうのか|萎縮を生む3つの心理
- 面接で相手を調査するという視点|何を見れば職場の本当が見えるか
- 本記事:逆質問は「質問」ではなく「調査」|聞き方で職場の本音が見える
参考文献
※1 Huang K, Yeomans M, Brooks AW, Minson J, Gino F. “It doesn’t hurt to ask: Question-asking increases liking.” J Pers Soc Psychol. 2017;113(3):430-452. PMID: 28447835
会話で質問を多くする人ほど相手から好かれやすく、とくに掘り下げる質問が好意につながることを示した研究。逆質問が失礼どころか好印象にもつながることの根拠となっている。
※2 VanEpps EM, Hart E. “Questions and deception: How to ask better questions and elicit the truth.” Curr Opin Psychol. 2022;47:101383. PMID: 35779451
望ましい答えを示唆せず中立に聞き、話題への知識と相手への信頼を示すことが正直な開示を促すと整理した論文。誘導しない聞き方が本音を引き出すことの根拠となっている。
※3 Lang F, Floyd MR, Beine KL, Buck P. “Sequenced questioning to elicit the patient’s perspective on illness: effects on information disclosure, patient satisfaction, and time expenditure.” Fam Med. 2002;34:325-330. PMID: 12038713
質問を重ねていくと最初には語られなかった重要な懸念を多くの人が打ち明けることを示した医療面談の研究。一度で終わらせず掘り下げて聞くことが本音の開示につながることの根拠となっている。
※A 北野唯我著『このまま今の会社にいていいのか?と一度でも思ったら読む 転職の思考法』ダイヤモンド社、2018年。ISBN:9784478105559
転職に必要なのは情報やスキルよりも「自分なりの判断軸」であると説いた一般向けキャリア書。逆質問を自分の軸に照らして相手を確かめる権利の行使と捉える本記事の考え方の参考としている。
※B 鈴木祐著『科学的な適職 4021の研究データが導き出す』クロスメディア・パブリッシング、2019年。ISBN:9784295403746
多数の研究データをもとに思い込みではなく自分との適合で職を選ぶ重要性を整理した実用書。逆質問を通じて適合を確かめるという本シリーズの締めくくりの考え方の参考としている。

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