毎日を一生懸命やっているのに、現実が何も変わらない。誰かに歩み寄っても、思うような反応が返ってこない。そんなとき、「自分には運がない」「才能がないんだ」と感じてしまうことがあります。
けれど、変化が起きないのには、もっとシンプルな理由が隠れているかもしれません。それは、まだ「アクション」を起こしていない、あるいは起こしたアクションと、返ってくる「リアクション」の関係を、うまくつかめていない、ということです。
この記事は、「アクションとリアクション」という見方で、人生や人間関係を捉え直すシリーズの最初の1本です。物理の世界に「作用・反作用の法則」があるように、私たちの毎日にも、自分の行動と、その返りの関係が働いています。最初にお伝えしたい結論は二つ。一つ、何もしなければ、何も返ってこない。もう一つ、返ってくるものは相手のもので、自分が出せるのはアクションまで。まずは、この全体像を一緒に見ていきましょう。
物理の法則を、人生にあてはめてみる
物理に、「作用・反作用の法則」というものがあります。壁を押せば、同じ力で壁から押し返される。何かに力を加えれば、必ず返りの力が生まれる、という考え方です。
これを、そのまま人生の法則として証明できるわけではありません。あくまで、ものごとを捉えるための比喩です。けれど、この比喩は驚くほど多くの場面に当てはまります。あなたが誰かに笑いかければ、笑顔が返ってくることが多い。助けを求めれば、手が差し伸べられることがある。逆に、何も働きかけなければ、世界はたいてい静かなままです。
大切なのは、リアクション(返り)は、たいていアクション(働きかけ)の後にやってくる、という順番です。私たちはつい、良い反応が返ってくるのを先に待ってしまいます。けれど順番は逆で、まず自分の側のアクションが起点になることが多いのです。
何もしなければ、何も返ってこない
「現実が変わらない」と感じるとき、その多くは、まだアクションが起きていない状態です。
気分が乗らないから動けない、と私たちは考えがちです。けれど実際は、その逆のことが起こります。研究では、小さな行動を起こすこと自体が、気分やウェルビーイングを後から押し上げることが示されています(※1)。やる気が出てから動くのではなく、動くからやる気が後からついてくる。順番は、行動が先なのです。
さらに、自分の手で何かを動かしているという感覚は、それだけで心の支えになります。自分で選び、自分で行動しているという実感が、人の心の安定に深く関わることもわかっています(※2)。つまりアクションは、現実を動かすだけでなく、あなた自身の内側も支えてくれます。
何も返ってこないと嘆く前に、まず小さな石を一つ、池に投げ込んでみる。波紋は、石を投げたあとにしか広がりません。動けないときの背中の押し方は思考を止めるな、行動を止めるな。でも触れています。
返ってくるのは、あなたの「アクション」への反応
投げかけたアクションは、しばしば思いがけない広がり方をします。
研究では、ある人の協力的な行動が、直接かかわった相手だけでなく、その先の人へ、さらにその先の人へと、波及していくことが示されています(※3)。あなたの小さな親切や働きかけが、巡り巡って思わぬところから返ってくる、ということが実際に起こるのです。人は、お互いに影響を与え合いながら動いています(※4)。
ここで覚えておきたいのは、返ってくるリアクションは、多くの場合「あなたのアクション」に対する反応だ、ということです。冷たい態度を投げれば、冷たさが返りやすい。歩み寄りを投げれば、歩み寄りが返りやすい。だとすれば、望む反応がないとき、変えられる余地があるのは、まず自分のアクションの側だということになります。
ただし、これは「すべての反応はあなた次第」という意味ではありません。相手にも事情があり、理不尽な反応が返ってくることもあります。その線引きについては、このあとの記事で詳しく扱います。
ただし、リアクションそのものはコントロールできない
ここが、このシリーズでいちばん大切な点です。あなたが出せるのは、アクションまでです。それに対してどんなリアクションを返すかは、相手の領域にあり、あなたにはコントロールできません。
良かれと思って動いても、相手が応えてくれないことはあります。誠実に向き合っても、すげない反応が返ってくることもあります。そのとき、「自分のやり方が悪かったのだ」とすべてを背負い込む必要はありません。アクションはあなたの課題、リアクションは相手の課題。この線を引けることが、振り回されずに動き続けるための土台になります(※5)。
期待した反応が返らないと、人は動くのをやめてしまいがちです。けれど、リアクションを手放してアクションに集中できると、結果に一喜一憂しすぎず、自分のできることを続けやすくなります。
今日からできる小さな一歩
今日試してほしいのは、「返り」を期待せずにできる小さなアクションを、一つだけ起こしてみることです。
挨拶に一言添える、気になっていた連絡を一本送る、ずっと迷っていたことを五分だけ始める。なんでも構いません。ポイントは、「相手がどう反応するか」を脇に置いて、自分が出せるアクションそのものに集中することです。
返ってくるかどうかは、相手とタイミング次第です。けれど、アクションを起こさなければ、返りの可能性はゼロのままです。小さくても、まず一つ動かしてみる。その一投が、止まっていた現実に、最初の波紋を生みます。
まとめ
人生や人間関係には、物理の作用・反作用に似た関係が働いています。何もしなければ、何も返ってこない。返ってくるリアクションは、多くの場合、あなたのアクションへの反応です。だから、現実を動かしたいなら、まず自分の側のアクションが起点になります。
同時に、忘れてはいけないのは、返ってくるリアクションそのものは、あなたにはコントロールできない、ということです。出せるのはアクションまで。その先は相手の領域です。
この二つ、「まず動く」と「返りは手放す」を両手に持てると、結果に振り回されずに行動を続けられるようになります。次の記事では、一つ目の柱、「何も起きないのは、まだ動いていないからかもしれない」を、もう少し掘り下げていきます。
参考文献
※1: Mazzucchelli TG, Kane RT, Rees CS. Behavioral activation interventions for well-being: A meta-analysis. J Posit Psychol. 2010. PMID: 20539837
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20539837/
小さな行動を増やすこと(行動活性化)が、気分やウェルビーイングを後から押し上げることを複数の研究から示したメタ分析。
※2: Leotti LA, Iyengar SS, Ochsner KN. Born to choose: the origins and value of the need for control. Trends Cogn Sci. 2010. PMID: 20817592
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20817592/
自分で選び、自分で行動しているという感覚が、人の心の安定を支えることを論じた論文。
※3: Fowler JH, Christakis NA. Cooperative behavior cascades in human social networks. Proc Natl Acad Sci U S A. 2010. PMID: 20212120
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20212120/
ある人の協力的な行動が、直接の相手を超えて、その先の人々へと波及していくことを示した研究。
※4: ロバート・B・チャルディーニ(社会行動研究会訳)『影響力の武器[第三版] なぜ、人は動かされるのか』誠信書房, 2014, ISBN: 9784414304220
返報性をはじめ、人がお互いの行動に影響を与え合う心理の原理を、豊富な事例とともに解説した社会心理学の名著。
※5: 岸見一郎・古賀史健『嫌われる勇気』ダイヤモンド社, 2013, ISBN: 9784478025819
自分の課題と他者の課題を切り分け、相手の反応に振り回されず自分の行動に集中する考え方を示した書籍。


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