SNSフォローボタン
ミハリン|人生設計ラボをフォローする

その「常識」、本当に正しい?|自分を守る常識と、縛る常識の見分け方

その「常識」、本当に正しい?|自分を守る常識と、縛る常識の見分け方 自信の話

前回の記事なぜ人は常識に縛られるのか|同調・社会的証明・脳の省エネでは、常識に縛られるのは意志の弱さではなく、人に共通する仕組みのせいだとお伝えしました。

ここまで読んで、こう感じた人もいるかもしれません。「では、常識は全部疑って、捨てたほうがいいのか」と。けれど、そうではありません。常識の中には、私たちを助けてくれる役立つものもたくさんあります。問題は、常識を「全部信じる」か「全部捨てる」かの両極端ではなく、その中間にあります。

この記事のテーマは、見分けることです。あなたを守ってくれる常識と、あなたを縛るだけの常識。この二つを切り分けられるようになることが、常識との健やかな付き合い方の核になります。


常識を「全部捨てる」必要はない

そもそも常識は、先人たちが積み重ねてきた知恵の結晶でもあります。信号を守る、約束の時間に遅れない、人に挨拶をする。こうした常識は、社会をなめらかにし、私たち自身も守ってくれます。これらをわざわざ疑う必要はありません。

大切なのは、「すべての常識が悪い」のではない、と理解することです。役立つ常識は使えばいい。問題になるのは、今のあなたの状況に合っていないのに、ただ「普通だから」という理由だけで自分を縛り続けている常識です。

つまり目指すのは、常識を捨てることではなく、「これは私を守る常識か、それとも縛る常識か」を見分ける目を持つことです。


なぜ常識を疑うのは難しいのか

とはいえ、いざ常識を点検しようとすると、強い抵抗を感じます。それには理由があります。人には、あいまいな状態を嫌い、早く確実な「答え」にたどり着きたいという欲求があるからです。

研究では、この「確実さを求める気持ち」が強い人ほど、予測できることを好み、あいまいさを不快に感じ、いったん持った考えに固執しやすいことが示されています(※1)。常識は、すでに用意された確実な答えです。だから、それを「本当に正しいのか」と宙ぶらりんにすることは、心地よくないのです。

裏を返せば、常識を疑うとは、一時的に「わからない」という宙づりの状態に耐えることでもあります。この居心地の悪さを少しだけ許せると、点検の扉が開きます。


見分ける3つの問い

では、具体的にどう見分ければいいのでしょうか。ある常識が自分に引っかかったとき、次の三つを問いかけてみてください。

一つ目、「それは、誰のための常識か」。自分を守るためのものか、それとも、誰かにとって都合がいいだけのものか。「普通はこうすべき」が、実は特定の立場の人にだけ得をさせていることもあります。

二つ目、「それは、今の自分や時代に合っているか」。前回までに触れたとおり、常識には賞味期限があります。昔は役立った前提が、今のあなたの状況では足かせになっていないかを確かめます。

三つ目、「それは、自分を守っているか、縛っているか」。その常識に従うことで、安心や安全が得られているなら守る常識です。従うたびに、苦しさや自分を抑え込む感覚が残るなら、それは縛る常識かもしれません。

ここで気をつけたいのは、人は自分のものの見方を「客観的な事実」だと感じやすい、ということです(※2)。だからこそ、頭の中だけで考えず、こうして問いを立てて意識的に点検することに意味があります。知識や常識を鵜呑みにせず、自分の頭で一度確かめてみる。その姿勢が、見分ける力を育てます(※3)。


「縛る常識」を手放す柔軟さ

縛る常識だと気づいたら、次は手放す番です。といっても、いきなり全部を捨てる必要はありません。必要なのは、状況に応じて考え方を切り替えられる「柔軟さ」です。

研究では、状況に合わせて自分の考えや行動を調整できる心理的な柔軟性が、心の健康の土台になることが示されています(※4)。逆に、一つの「こうあるべき」に固まってしまうと、現実とぶつかるたびに苦しくなります。柔軟さとは、芯がないことではなく、場面に応じて握り方をゆるめられる強さです。

特に、「他人がどう思うか」を基準にした常識は、手放す価値があります。他人の課題と自分の課題を切り分け、自分の人生を自分で選ぶという考え方は、縛る常識から自由になる助けになります(※5)。「普通はこうすべき」を、「自分はどうしたいか」に置き換える。その小さな主語の入れ替えが、縛りをほどいていきます。なお、その「べき」が自分の内側の思考の癖と結びついている場合は引き受け癖がある人の断れない心理|「すべき思考」と読心術も参考になります。


今日からできる小さな一歩

今日試してほしいのは、最近あなたを縛った常識を一つ取り上げて、さきほどの三つの問いに当てはめてみることです。

「それは誰のためか」「今の自分に合っているか」「守っているか、縛っているか」。紙に書いても、頭の中で考えるだけでも構いません。

もし三つとも「縛る」側に傾いたなら、その常識には、こう小さくつぶやいてみてください。「これは、従わなくてもいい常識かもしれない」。すぐに行動を変える必要はありません。「これは縛る常識だ」と仕分けできること自体が、見分ける力の第一歩です。仕分けが進むほど、自分を縛っていたものと、本当に大切にしたいものの輪郭が、はっきりしてきます。自分に貼った古いレッテルをはがす視点は自己卑下癖の心理|自分をダメだと思う「レッテル」をはがそうも合わせてどうぞ。


まとめ

常識との健やかな付き合い方は、全部信じることでも、全部捨てることでもありません。あなたを守る常識と、あなたを縛る常識を、見分けることです。

常識を疑うのが難しいのは、人が確実な答えに固執しやすいからです。だからこそ、「誰のためか」「今に合っているか」「守るか縛るか」という三つの問いで、意識的に点検することに意味があります。そして、縛る常識だと気づいたら、状況に応じて握り方をゆるめる柔軟さを持つこと。「普通はどうか」ではなく「自分はどうしたいか」を、判断の真ん中に戻していくことです。

見分ける目が育つと、常識はあなたを支配するものではなく、あなたが選んで使う道具に変わります。次の記事では、少し角度を変えて、最近怒りやすくなったと感じる人に向けて、その怒りと常識の意外な関係を見ていきます。


参考文献

※1: Webster DM, Kruglanski AW. Individual differences in need for cognitive closure. J Pers Soc Psychol. 1994. PMID: 7815301
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/7815301/
確実な答えを早く求める欲求(認知的完結欲求)が強い人ほど、あいまいさを嫌い、いったん持った考えに固執しやすいことを示した研究。

※2: Pronin E, Gilovich T, Ross L. Objectivity in the eye of the beholder: divergent perceptions of bias in self versus others. Psychol Rev. 2004. PMID: 15250784
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15250784/
人は自分のものの見方を客観的で偏りのないものと感じやすく、それゆえ自分の前提を疑いにくいことを示した研究。

※3: ちきりん『自分のアタマで考えよう 知識にだまされない思考の技術』ダイヤモンド社, 2011, ISBN: 9784478017036
世間の知識や常識を鵜呑みにせず、自分の頭で確かめて考えるための具体的な思考の技術を解説した書籍。

※4: Kashdan TB, Rottenberg J. Psychological flexibility as a fundamental aspect of health. Clin Psychol Rev. 2010. PMID: 21151705
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21151705/
状況に応じて考えや行動を切り替えられる心理的柔軟性が、心の健康の土台になることを多角的に論じたレビュー論文。

※5: 岸見一郎・古賀史健『嫌われる勇気』ダイヤモンド社, 2013, ISBN: 9784478025819
他者の課題と自分の課題を切り分け、他人の評価や常識に縛られず自分の人生を選ぶ考え方を示した書籍。

コメント