「どうして自分だけ、この職場で浮いてしまうんだろう」。そう考えはじめると、答えはたいてい一つの方向に向かっていきます。「きっと自分に何か足りないところがあるからだ」。コミュニケーションが下手だから。性格が暗いから。要領が悪いから。
けれど、本当にそうでしょうか。前回の記事「職場で浮いていると感じるとき、何が起きているのか|「居場所がない」の正体」では、浮いているという感覚は嫌われているからでも劣っているからでもなく、その場との「適合度」のサインだとお伝えしました。
この記事では、その続きとして、ではなぜ自分だけが浮いてしまうのか、その理由をもう少し具体的に見ていきます。先に結論をお伝えすると、浮くことの原因は「あなたが悪いから」ではなく、「あなたとその場が合っていないから」であることが、とても多いのです。
「浮くのは自分のせい」と感じてしまう思考のクセ
まず知っておいてほしいのは、人にはそもそも、何かがうまくいかないとき、その原因を「環境」よりも「その人の性格や能力」に求めてしまう傾向があるということです。これは多くの研究で確認されている、人の判断のクセのようなものです(※1)。
このクセは、他人を見るときだけでなく、自分自身に向けたときにも働きます。だから「浮いている」という状況に直面したとき、人は無意識に「場の側に理由があるのでは」とは考えず、「自分の中に欠陥があるからだ」と結論づけてしまいやすいのです。
つまり、「浮くのは自分のせい」という感覚は、客観的な事実というより、人間に共通する思考のクセが生み出した解釈であることが少なくありません。同じことは、自分を責めがちな思考のパターンとも重なります。このあたりはなぜ職場で孤立してしまうのか|自己認知のズレと5つの思考パターンでも触れています。
まずは、「自分が悪いに違いない」という最初の結論を、いったん保留してみることから始めましょう。
浮いているのは「合っていない」だけ:適合度という見方
人が職場に馴染めるかどうかは、その人個人の優劣だけで決まるものではありません。「その人の性質」と「その場の性質」が、どれくらい噛み合っているか。この組み合わせ、つまり適合度こそが、馴染めるかどうかを大きく左右します。
たとえば、にぎやかに雑談しながら進めるのが当たり前の職場と、静かに集中して進めたい人。スピードと勢いを重んじる場と、じっくり考えてから動きたい人。声の大きさで物事が決まる場と、聞くことや観察することに長けた人。どちらが優れているという話ではなく、ただ噛み合っていないだけ、ということが起こります。
特に、静かに深く考えるタイプの人は、外向的なノリが基準になっている場では本来の力を発揮しにくく、「浮いている」と感じやすい傾向があります。けれど、それはその人の能力が低いということではなく、評価の物差しが合っていないだけかもしれません(※5)。
「浮いている=劣っている」ではなく、「浮いている=今の場と合っていない」。この見方に立てるかどうかで、その後の苦しさはずいぶん変わってきます。
なぜ「みんなの空気」に乗れないと浮いてしまうのか
職場には、明文化されたルールとは別に、「空気」という見えない基準が流れています。なんとなくの正解、暗黙の振る舞い方、その場の多数派が共有している価値観。これに自然と乗れる人は浮きませんが、乗れない人は浮いて見えます。
ここで大切なのは、多数派に合わせる力は、意志の強さとは別の話だということです。人の脳は、自分の感覚が多数派と食い違うとき、その違いを知覚や感情のレベルで処理することがわかっています(※2)。多数派と違うことには、それ自体に一種の居心地の悪さが伴うのです。だから「みんなと同じようにできない」のは、あなたの努力不足ではありません。
そして、その場の空気と合わないことは、欠陥ではありません。日本の集団に流れる「空気」は、しばしば誰が決めたわけでもないのに人を縛ります。その空気に違和感を覚えるのは、あなたがおかしいのではなく、ただその空気と相性が合っていないだけかもしれません(※4)。問題は、空気に合わせられない側にあるのではなく、合わない空気がそこにある、という組み合わせのほうにあります。
「自分はここにいていいのか」という不確かさ
浮いている感覚を強めるもう一つの要素が、「自分はこの場に本当に属しているのだろうか」という不確かさです。
研究では、自分が場に馴染んでいるかどうかに自信が持てない状態を「所属の不確かさ」と呼びます。この状態にあると、人はささいな出来事にも敏感になります。誰かのそっけない返事、自分だけ誘われなかった一回、会話が途切れた一瞬。そうした小さな出来事を「やはり自分はここに合っていない証拠だ」と受け取りやすくなり、意欲ややる気まで下がっていくことがわかっています(※3)。
やっかいなのは、これが悪循環になりやすいことです。「自分は浮いている」と感じると、自分から距離を取り、表情も硬くなる。すると相手もそれを感じ取って、ますます距離ができる。こうして、最初の不確かさが現実を作り出してしまうことがあります。
だからこそ、「自分はここにいていいのか」という問いに、一人で性急な答えを出さないことが大切です。その不確かさは、あなたの価値の証明ではなく、ただ今の環境との関係がまだ定まっていないというだけのことかもしれません。
全部自分のせいでも、全部環境のせいでもない
ここまで「あなたのせいではない」という話を続けてきましたが、一つだけ補っておきたいことがあります。それは、「だから全部、環境が悪い」という結論に飛びつかないことです。
浮いている原因をすべて環境のせいにしてしまうと、今度は自分にできる工夫の余地まで見えなくなってしまいます。適合度というのは、あなたと環境の「あいだ」にあるものです。だから、変えられる部分と、変えられない部分の両方があります。
自分の性質を無理に作り変える必要はありません。けれど、関わり方を少し調整したり、合う相手を見つけたり、自分の力が活きる場面を選んだりすることはできます。「自分が悪い」でも「環境が悪い」でもなく、「合っていない、ではどう折り合うか」。この中間の立ち位置が、次の行動につながる現実的な視点です。
具体的にどう折り合いをつけ、浮いたまま自分を保っていくかは、次の記事で詳しく見ていきます。
今日からできる小さな一歩
今日試してほしいのは、「自分はなぜ浮くのか」を、自分の欠点ではなく、自分と環境の「ズレ」として書き出してみることです。
紙に縦線を一本引いて、左に「この職場が当たり前としていること」、右に「自分が心地よいと感じること」を、思いつくままに並べてみてください。たとえば左に「即レス・スピード重視」、右に「じっくり考えてから返したい」。左に「大人数の飲み会で距離を縮める」、右に「少人数で静かに話したい」。
こうして並べると、浮いている理由が「自分のダメさ」ではなく、「左と右のズレ」として目に見えてきます。ズレが見えれば、それは責める対象ではなく、扱える情報に変わります。
判断や結論は、まだ出さなくて大丈夫です。今日のところは、「自分が悪いから浮く」という思い込みを、「合っていないから浮く」という事実に置き換える。その一歩だけで十分です。
まとめ
なぜ自分だけが浮いてしまうのか。その原因を、人はつい自分の性格や能力の欠陥に求めてしまいます。けれどそれは、原因を人の側に求めやすいという、人間共通の思考のクセによるところが大きいのです。
実際には、浮くかどうかは「あなたの性質」と「その場の性質」の組み合わせ、つまり適合度によって決まります。多数派の空気に乗れないのは意志の弱さではなく、所属の不確かさが小さな出来事への過敏さを生むこともあります。どれも、あなたが劣っているという話ではありません。
同時に、すべてを環境のせいにする必要もありません。「合っていない、ではどう折り合うか」。自分も環境も責めないこの視点が、浮いている状態から次の一歩へ進むための土台になります。次の記事では、浮いたままで自分を保つ具体的な方法を見ていきます。
参考文献
※1: Gilbert DT, Malone PS. The correspondence bias. Psychol Bull. 1995. PMID: 7870861
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/7870861/
人が他者や自分の行動の原因を、状況よりもその人の性質に偏って帰属しやすいこと(対応バイアス)を体系的に示した論文。
※2: Berns GS et al. Neurobiological correlates of social conformity and independence during mental rotation. Biol Psychiatry. 2005. PMID: 15978553
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15978553/
多数派と意見が食い違うとき、その違いが知覚や感情のレベルで脳内に処理されることを示し、同調圧力が意志の問題だけではないことを示唆した研究。
※3: Walton GM, Cohen GL. A question of belonging: race, social fit, and achievement. J Pers Soc Psychol. 2007. PMID: 17201544
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17201544/
自分が場に馴染んでいるか自信が持てない「所属の不確かさ」が、ささいな出来事への過敏さを生み、意欲や成果まで下げることを示した研究。
※4: 鴻上尚史『「空気」を読んでも従わない 生き苦しさからラクになる』岩波書店, 2019, ISBN: 9784005008933
日本の集団に流れる「空気」や同調圧力の正体を解きほぐし、その空気と合わないことは欠陥ではないと示した書籍。
※5: ジル・チャン(神崎朗子訳)『「静かな人」の戦略書 騒がしすぎるこの世界で内向型が静かな力を発揮する法』ダイヤモンド社, 2022, ISBN: 9784478111475
外向的なノリが基準の場で浮きやすい内向型の人が、その性質を欠点ではなく強みとして活かす方法を示した書籍。


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