「アクションとリアクション」というテーマで、ここまで見てきました。人生には作用・反作用に似た関係が働いていること、まず動くこと、そして返ってくる反応は相手のものだということ。最終回となるこの記事では、その先にある「連鎖」の話をします。
アクションとリアクションは、一回で終わりません。あなたのアクションが相手のリアクションを生み、そのリアクションがあなたの次のアクションを引き出す。こうして、やりとりは連鎖していきます。前回返ってくる反応は、相手のもの|コントロールできるのは自分のアクションまでで、返りは手放すとお伝えしました。そのうえで、この連鎖の「流れ」を、最初のアクションで変えられることもあるのです。
「売り言葉に買い言葉」は、負の反作用の連鎖
イライラをぶつけられて、こちらもつい強く言い返す。冷たくされて、こちらも冷たくなる。こうした「売り言葉に買い言葉」は、負の反作用の連鎖です。
その背景には、感情が人から人へ伝染する性質があります。研究では、人の感情状態が、社会的なつながりを通じて周囲へ広がっていくことが示されています(※2)。誰かの不機嫌は、受け取った側の気分を下げ、その下がった気分が、また次の誰かへ移っていく。負の感情は、放っておくと連鎖しやすいのです。
だから、相手の刺々しい態度に、こちらも刺々しく返すと、連鎖はどんどん強まります。これはあなたが短気だからではなく、感情の伝染という自然な働きに乗ってしまっているだけです。まず、この連鎖の存在に気づくことが、抜け出す第一歩になります。
連鎖は、最初のアクションを変えると止まる
負の連鎖のやっかいなところは、「相手が態度を変えてくれたら、自分も変える」と、お互いに待ってしまうことです。けれど、両方が待っている限り、連鎖は止まりません。
ここで思い出したいのが、このシリーズの一つ目の柱、「まず動く」です。連鎖を断つ最初の一手を、自分の側から出す。相手の刺々しさに、あえて穏やかなトーンで返す。返事を一拍おいて、感情ではなく事実で返す。そうした小さなアクションが、連鎖の流れを変えるきっかけになります。
「なぜ自分から折れなければいけないのか」と感じるかもしれません。これは折れるのとは違います。連鎖の主導権を、自分の手に取り戻す、ということです。自分で次の一手を選んでいるという感覚は、それ自体があなたを支えます(※3)。相手に反応させられるのではなく、自分が流れを選ぶ。その立ち位置が、消耗を減らします。
良い種は、良い反応を呼びやすい
連鎖は、負の方向だけでなく、良い方向にも働きます。
人には、何かをしてもらったら、お返しをしたくなるという性質があります。これは返報性と呼ばれ、人間関係を動かす強い力として知られています(※4)。あなたが先に小さな親切や誠実さを差し出すと、相手もそれに応えたくなる。そして研究では、協力的な行動が、直接の相手を超えて、その先の人々へと波及していくことも示されています(※1)。良い種は、まいた場所だけでなく、思わぬところで芽を出すのです。
だから、良い流れを作りたいなら、まず自分から良い種をまく。相手を頭ごなしに責めるのではなく、まず相手の言い分に耳を傾ける。そうした働きかけが、相手の反応を、そしてやりとり全体の空気を、少しずつ変えていきます(※5)。
ただし「見返り目的」の種まきは、なぜか裏目に出る
ここで一つ、大切な注意があります。良い種をまくとき、「これだけやったのだから、見返りがあるはずだ」という下心が前面に出ると、かえってうまくいきません。
見返りを強く期待していると、期待どおりの反応が返らなかったときに、「あんなにしてあげたのに」という不満が生まれます。その不満は態度ににじみ出て、今度は負の連鎖の火種になってしまいます。前回お伝えしたとおり、返ってくるリアクションは、相手のものでコントロールできません。
だから、良い種は「まけたら、それでよし」という気持ちでまくのが、結局いちばんうまくいきます。返ってきたら嬉しい、返らなくても自分のアクションには意味がある。この手放しができているとき、種まきは自然で、相手にも重荷になりません。良い流れは、見返りを握りしめない手からこそ、生まれていきます。
今日からできる小さな一歩
今日試してほしいのは、最近つい「買い言葉」で返してしまったやりとりを一つ思い出して、「もし最初のアクションを変えていたら」と想像してみることです。
相手の一言にカッとして返したあの場面で、もし一拍おいていたら。冷たくされて冷たく返したあのとき、もし一つだけ穏やかな言葉を選んでいたら。連鎖はどう変わっていたでしょうか。
そして、次に似た場面が来たら、その「変えた一手」を、一度だけ試してみてください。うまくいくかどうかは、相手次第の部分もあります。それでも、連鎖に飲まれるのではなく、自分から流れを選べたなら、それはもう一つの前進です。
まとめ
アクションとリアクションは連鎖します。負の感情は伝染しやすく、「売り言葉に買い言葉」は連鎖を強めます。けれど、その連鎖は、自分の側の最初のアクションを変えることで、断つことができます。折れるのではなく、主導権を取り戻すのです。
連鎖は良い方向にも働きます。返報性という力があるため、まず自分から良い種をまくと、良い反応が返りやすくなります。ただし、見返りを握りしめると裏目に出る。まけたらよし、という手放しが、良い流れを育てます。
このシリーズを通してお伝えしたかったのは、こうです。何もしなければ何も返らない。だからまず動く。けれど返ってくる反応は相手のもので、コントロールはできない。そして、やりとりの流れは、自分の最初のアクションで変えられることがある。行動の主導権を、静かに自分の手に握っておくこと。それが、人生と人間関係を、少しずつ動かしていく力になります。
参考文献
※1: Fowler JH, Christakis NA. Cooperative behavior cascades in human social networks. Proc Natl Acad Sci U S A. 2010. PMID: 20212120
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20212120/
ある人の協力的な行動が、直接の相手を超えて、その先の人々へと波及していくことを示した研究。
※2: Coviello L et al. Detecting emotional contagion in massive social networks. PLoS One. 2014. PMID: 24621792
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24621792/
人の感情状態が、社会的なつながりを通じて周囲の人へと伝染し広がっていくことを大規模なデータから示した研究。
※3: Leotti LA, Iyengar SS, Ochsner KN. Born to choose: the origins and value of the need for control. Trends Cogn Sci. 2010. PMID: 20817592
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20817592/
自分で選び、自分で行動しているという感覚が、人の心の安定を支えることを論じた論文。
※4: ロバート・B・チャルディーニ(社会行動研究会訳)『影響力の武器[第三版] なぜ、人は動かされるのか』誠信書房, 2014, ISBN: 9784414304220
何かをしてもらうとお返しをしたくなる「返報性」をはじめ、人が動かされる心理の原理を解説した社会心理学の名著。
※5: D・カーネギー(山口博訳)『人を動かす 文庫版』創元社, 2016, ISBN: 9784422100982
相手を頭ごなしに責めず、まず相手を理解し尊重する働きかけが、良い反応を引き出すことを豊富な事例で示した古典的名著。


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