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消耗しない反応を、自分で選ぶ|仕事の不満への向き合い方を設計する

「仕事への幻滅」というテーマで、ここまで見てきました。幻滅の正体は心理的契約の違反であること、不満への反応には辞める・声を上げる・耐える・手を抜くの4つがあること、そして静かな退職の内側で何が起きているのか。最終回となるこの記事では、いよいよ本題です。その4つの中から、消耗しない反応を、どう選び取るか。

前回「静かな退職」の心理|心が仕事から静かに離れるときでお伝えしたとおり、どの反応にも、自分を守る機能があります。ですから、ここでも「これが正解」という話はしません。大切なのは、無自覚に流されるのではなく、自分で選んでいる状態をつくることです。


EVLNを、2つの軸で見る

4つの反応は、二つの軸で整理できます(※1)。一つ目の軸は、「建設的か、破壊的か」。関係や状況をよくする方向に働くのか、それとも損なう方向に働くのか。二つ目の軸は、「能動的か、受動的か」。自分から動くのか、状況に身を任せるのか。

この軸で並べると、それぞれの位置が見えてきます。声を上げる(Voice)は、能動的で建設的。辞める(Exit)は、能動的だが、状況によっては関係を断つ方向に働きます。耐える(Loyalty)は、受動的だが、回復を待つという意味で建設的な面もあります。手を抜く(Neglect)は、受動的で、長引けば状況も自分も損なう方向に傾きやすい反応です。

自分が今どこにいるかがわかると、「このままでいいのか」「別の位置に移れないか」を考えられるようになります。


消耗しにくいのは、「建設的な反応」

一般に、消耗が深まりにくいのは、建設的な側の反応です。とはいえ、「声を上げよう」と言われても、身構えてしまう人は多いはずです。

ここで大切なのは、声を上げるとは、会社と全面対決することではない、ということです。すべてを一度に変えようとせず、変えられそうな小さな一点に絞って働きかける。「この作業の分担だけ相談してみる」「この一件だけ、上長に確認する」。人は、自分の行動が小さな成果につながる経験を重ねることで、「自分にはできる」という感覚を取り戻していきます(※3)。その小さな成功が、無力感を少しずつ溶かしてくれます。

一方、辞める(Exit)を選ぶ場合も、建設的な形にできます。それは、準備してから動く、ということです。ここで注意したいのが、判断のタイミングです。強いストレスの下では、人の意思決定は短期的で衝動的な方向に偏りやすいことがわかっています(※4)。いちばん消耗している時期に勢いで決めると、あとから後悔しやすくなります。

また、そもそも今の職場との「合わなさ」が続いていることが、離れたい気持ちに結びついていることもあります(※5)。合わないと感じるなら、それは甘えではなく一つの情報です。ただ、動くのは心が少し落ち着いてから。この順番が、後悔を減らします。静かな退職を続けるか転職に踏み出すかの比較は「静かな退職」か「転職」か?キャリアを会社に委ねるのをやめたら人生が楽になった話も参考になります。


受動的な反応も、意識して選べば戦略になる

では、耐える(Loyalty)や手を抜く(Neglect)は、避けるべきなのでしょうか。そうとは限りません。

前回お伝えしたとおり、心のエネルギーを引くことには、消耗から自分を守る機能があります。異動や状況の変化が見込めるなら、耐えて待つことにも意味があります。今は余力がないなら、意識的に手を抜いて、回復に充てることも立派な選択です。

問題になるのは、それが「無自覚に続いている」ときです。気づけば何年も心を引いたまま、意味も安全も余力も戻らないまま止まっている。そうなると、仕事だけでなく、自分の張りまで失われていきます。

だから、受動的な反応を選ぶときは、期限や条件をつけてみてください。「あと三か月は様子を見る」「この人事異動までは待つ」。区切りをつけた瞬間、それは流されている状態ではなく、あなたが選んだ戦略に変わります。


どれを選ぶにせよ、「自分で選んだ」ことが力になる

最後にお伝えしたいのは、4つのどれを選ぶかよりも、「自分で選んでいる」という感覚のほうが、あなたを支えるということです。

自分で選び、自分で動かしているという実感は、結果の良し悪しとは別に、人の心の安定を支えることがわかっています(※2)。同じ「耐える」でも、流されて耐えているのと、期限を決めて自分で耐えると決めたのとでは、消耗の度合いがまるで違います。同じ「辞める」でも、追い詰められて逃げるのと、準備して自分で選ぶのとでは、その後の景色が変わります。

心理的契約を破られたとき、私たちは主導権を奪われたように感じます。だからこそ、反応を自分で選び直すことが、その主導権を取り戻す行為になるのです。なお、退職や労働条件をめぐって法的な判断が必要な場面では、労働局の総合労働相談コーナーや労働組合、弁護士などの専門家にご相談ください。


今日からできる小さな一歩

今日試してほしいのは、今の自分の反応に、「期限」か「一手」のどちらかを添えてみることです。

耐えている、あるいは手を抜いているなら、「いつまで様子を見るか」を決めてみる。声を上げたいなら、「変えられそうな一点」だけを書き出してみる。辞めることを考えているなら、「動く前に整えたい準備」を一つ挙げてみる。

大きな決断をする必要はありません。今の反応に、自分の意思の印を一つ添える。それだけで、流されていた状態が、選んでいる状態に変わります。その小さな転換が、消耗を止める確かな一歩になります。


まとめ

仕事の不満への4つの反応は、「建設的か破壊的か」「能動的か受動的か」の二軸で整理できます。消耗が深まりにくいのは建設的な側ですが、声を上げるなら小さな一点から、辞めるなら準備してから、そして消耗の底では決めないことが大切です。

耐えることや手を抜くことも、期限や条件をつけて意識的に選べば、立派な戦略になります。問題は、無自覚に長く続いてしまうことです。

このシリーズでは、幻滅の正体である心理的契約の違反から、静かな退職の心理、そして反応の選び方までを見てきました。仕事に幻滅するのは、あなたが甘いからではありません。そして、その先にどう反応するかは、あなたが選べます。会社に預けていた主導権を、少しずつ自分の手に取り戻していく。その積み重ねが、消耗しない働き方をつくっていきます。


参考文献

※1: Rusbult CE, Farrell D, Rogers G, Mainous AG. Impact of Exchange Variables on Exit, Voice, Loyalty, and Neglect: An Integrative Model of Responses to Declining Job Satisfaction. Academy of Management Journal. 1988;31(3):599-627.
仕事への不満への4つの反応(辞める・声を上げる・耐える・手を抜く)を、建設的か破壊的か、能動的か受動的かという二軸で整理したモデル。

※2: Leotti LA, Iyengar SS, Ochsner KN. Born to choose: the origins and value of the need for control. Trends Cogn Sci. 2010. PMID: 20817592
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20817592/
自分で選び、自分で行動しているという感覚が、結果の良し悪しとは別に人の心の安定を支えることを論じた論文。

※3: Bandura A. Self-efficacy: toward a unifying theory of behavioral change. Psychol Rev. 1977. PMID: 847061
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/847061/
実際に行動して小さな成果を積み重ねた経験が、「自分にはできる」という感覚を育てる最も強い土台になることを示した理論。

※4: Starcke K, Brand M. Decision making under stress: a selective review. Neurosci Biobehav Rev. 2012. PMID: 22342781
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22342781/
強いストレス下では意思決定が短期的・衝動的に偏りやすくなることを、多数の研究から整理したレビュー論文。

※5: Xiao Y et al. Person-environment fit and medical professionals’ job satisfaction, turnover intention, and professional efficacy: A cross-sectional study in Shanghai. PLoS One. 2021. PMID: 33905430
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33905430/
職場との適合の低さが、仕事の満足度を下げ、「ここを離れたい」という離職意向と結びつくことを示した研究。

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