面接の日が近づくと、胃のあたりが重くなります。昨日の私は、まさにそんな感じで、緊張して、面接時に声をお腹から出せるか心配でした。面接は無事に切り抜けましたが、結果はまだ出ていません。
「変なことを言って落とされたらどうしよう」「うまく答えられなかった」「あの沈黙は、評価が低かったサインだろうか」。
面接が終わったあとも、頭の中で反省会が続きました。これも想定通り。一つひとつの受け答えを採点し直して、勝手に減点していく。
その消耗の多くは、ひとつの思い込みから来ています。「面接とは、自分が評価される場だ」という思い込みです。
でも、転職面接は、テストではありません。あなたが相手を調べる、絶好の機会でもあります。
面接を「テスト」だと思った瞬間に、何が起きるか
面接を一方的な試験だと捉えると、頭の中は「どう見られているか」でいっぱいになります。そして、その不安そのものが、あなたの力を奪います。
8000人以上の応募者を対象にしたマッカーシーらの研究では、面接時の不安が高い人ほど、面接でのパフォーマンスが低くなることが示されています(McCarthy et al., 2021)※1。緊張すること自体が悪いのではありません。けれど「評価される側」という意識が不安を膨らませ、その不安が受け答えを縮こまらせる。皮肉なことに、テストだと思うほど、テストの結果は悪くなりやすいのです。
「ちゃんと答えなきゃ」と力むほど、相手の話が頭に入らず、自分が本当に確かめたかったことも聞けないまま終わる。これは多くの人が経験していることだと思います。
なぜ「評価される側」だと感じてしまうのか
面接室に入ると、なぜか自分が小さく感じる。これは性格の弱さではなく、立場の構造が生み出す自然な反応です。
ケルトナーらの研究では、力(パワー)を持つ立場にある人は接近的・能動的にふるまいやすく、力が低いと感じる立場にある人は、脅威や制約に敏感になり、行動が抑制されやすいことが整理されています(Keltner et al., 2003)※2。面接では、合否を決めるのは相手だと感じる。だから自分は「力の低い側」だと無意識に位置づけ、萎縮し、相手の顔色をうかがう。これは脳が立場に反応した結果です。
けれど、ここに見落としがあります。合否を決めるのは相手かもしれませんが、入社するかどうかを決めるのは、あなたです。選んでいるのは、片方だけではありません。立場の非対称は、実際よりずっと大きく感じられているのです。
「面接で緊張するのは自分がダメだから」ではなく、「立場の構造に脳が反応しているだけ」。この見方の転換が、シリーズ全体の出発点になります。緊張の正体については、転職が怖い本当の理由で扱った現状維持バイアスとも深くつながっています。
面接は本来、「相互に見極める場」
採用とは、企業があなたを選ぶと同時に、あなたが企業を選ぶ場です。この双方向性は、感覚的な話ではありません。
採用研究では、仕事の実態を良い面も悪い面も含めて事前に伝える「現実的職務予告(Realistic Job Preview)」を行うほど、入社後の早期離職が減ることが繰り返し示されてきました。つまり、入る前にお互いの実態を正直に確かめ合うことが、双方にとって損の少ない結果につながるのです。北野唯我氏も『転職の思考法』の中で、転職に必要なのは情報やスキルよりも「自分なりの判断軸」だと述べています※A。
判断軸を持つとは、あなたの側にも「見極める権利」があると認めることです。面接は、その権利を行使する貴重な時間です。給与条件の確認だけでなく、一緒に働く人の雰囲気、評価のされ方、忙しさの実態。それらは、入ってからでは取り返しがつかない情報です。だからこそ、面接という対面の場で確かめる価値があります。
面接はテストじゃなくて、相互調査の場。この一語の置き換えが、あなたの立ち位置を変えます。
見極めを怠ると、入社後に何が起きるか
「とにかく受かりたい」で面接を乗り切り、相手を調べないまま入社すると、ミスマッチのリスクが残ります。そしてミスマッチは、単なる「相性が悪い」では済みません。
ブランドステッターらの研究では、自分の動機と仕事内容が噛み合っていない状態(動機の不一致)が、燃え尽きや身体症状の増加と関連することが示されています(Brandstätter et al., 2016)※3。合わない場所に入ってしまうと、心と体が消耗していく。これは、努力の問題ではなく、適合の問題です。
鈴木祐氏の『科学的な適職』も、思い込みや勢いで職を選ぶことの危うさを、多くの研究データから整理しています※B。面接で相手を調べることは、入社後の自分を守る投資なのです。見極めを「面接官に失礼かもしれない」とためらう必要はありません。確かめることは、双方にとって誠実な行為です。
このシリーズでできること
このシリーズは4本で構成されています。
ハブ(本記事)では、面接は一方的なテストではなく相互に見極める場である、という全体像を整理しました。
記事#1では、なぜ面接で「ジャッジされる側」だと感じてしまうのか、その心理のしくみを深掘りします。
記事#2では、面接で相手を調査するという視点で、人・環境・働き方のどこを観察すればよいかを整理します。
記事#3では、逆質問を「調査」として使う方法、つまり何をどう聞けば職場の本音が見えるかをまとめます。
今日からできる小さな一歩
- 次の面接で「確かめたいこと」を3つ書き出す: 評価される準備ではなく、調べる準備をします。一緒に働く人・残業の実態・評価の基準など、入ってからでは聞きにくいことを選びます
- 「合否を決めるのは相手、入社を決めるのは自分」と紙に書く: 立場は片方向ではないという事実を、目に見える形にします。萎縮しそうになったら、これを思い出します
- 面接後の反省会を「相手の観察メモ」に置き換える: 「自分の受け答えの採点」ではなく「相手はどんな職場だったか」を書きます。注意の向きが、自分から相手へ移ります
まとめ
面接で消耗するのは、あなたが弱いからではありません。「評価される側」という思い込みが不安を膨らませ、立場の構造が脳を萎縮させているからです。
けれど、選んでいるのは相手だけではありません。あなたも相手を選んでいます。面接はテストではなく、入社後の自分を守るために相手を調べる、相互調査の場です。
視点が変わると、面接室の景色が変わります。次の記事から、その視点を一つずつ実装していきます。
なお、転職の判断はあなたの状況によって異なります。この記事は特定の選択を勧めるものではなく、考え方を整理するための視点を提供するものです。
このシリーズの記事一覧
転職面接を「相互に見極める場」として捉え直し、入社後のミスマッチを防ぐためのシリーズです。
- 本記事:転職面接はテストではない|「評価される側」という思い込みが消耗を生む
- 記事#1:なぜ面接で「ジャッジされる側」だと感じてしまうのか(公開後にリンク追加)
- 記事#2:面接で相手を調査するという視点|何を見れば職場の本当が見えるか(公開後にリンク追加)
- 記事#3:逆質問は「質問」ではなく「調査」|聞き方で職場の本音が見える(公開後にリンク追加)
参考文献
※1 McCarthy JM, Truxillo DM, Bauer TN, Erdogan B, Shao Y, Wang M, Liff J, Gardner C. “Distressed and distracted by COVID-19 during high-stakes virtual interviews: The role of job interview anxiety on performance and reactions.” J Appl Psychol. 2021;106(8):1103-1117. PMID: 34423997
8000人以上の応募者を対象に、面接時の不安が高いほど面接でのパフォーマンスや評価が低下することを示した大規模研究。面接を一方的なテストと捉えることが不安を介して結果を悪化させることの根拠となっている。
※2 Keltner D, Gruenfeld DH, Anderson C. “Power, approach, and inhibition.” Psychol Rev. 2003;110(2):265-284. PMID: 12747524
力を持つ立場では接近的に、力が低い立場では脅威に敏感になり行動が抑制されやすいことを整理した理論的研究。面接で「評価される側」が萎縮するのが性格ではなく立場の構造への反応であることの根拠となっている。
※3 Brandstätter V, Job V, Schulze B. “Motivational Incongruence and Well-Being at the Workplace: Person-Job Fit, Job Burnout, and Physical Symptoms.” Front Psychol. 2016;7:1153. PMID: 27570513
自分の動機と仕事内容の不一致が燃え尽きや身体症状の増加と関連することを示した研究。面接で相手を見極めずミスマッチな職場に入ることが入社後の消耗につながることの根拠となっている。
※A 北野唯我著『このまま今の会社にいていいのか?と一度でも思ったら読む 転職の思考法』ダイヤモンド社、2018年。ISBN:9784478105559
転職に必要なのは情報やスキルよりも「自分なりの判断軸」であると説いた一般向けキャリア書。面接で相手を見極めるには自分の軸を持つことが前提になる、という本シリーズの考え方の参考としている。
※B 鈴木祐著『科学的な適職 4021の研究データが導き出す』クロスメディア・パブリッシング、2019年。ISBN:9784295403746
多数の研究データをもとに、思い込みや勢いで職を選ぶことの危うさと、適合を確かめることの重要性を整理した実用書。面接で相手を調査することが入社後の自分を守る投資であるという本記事の主張の参考としている。


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