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「伝わらない」を全部自分のせいにしない|説明疲れと自責の切り離し

「伝わらない」を全部自分のせいにしない|説明疲れと自責の切り離し 職場の話

前回の記事説明が重くなる相手と状況|前提の非共有・知識の呪い・認知スタイルの差では、説明コストを高める要因を整理しました。今回は、それでも伝わらなかったとき、その結果をどう受け止めればいいのかを見ていきます。

何度説明しても伝わらない。そんな経験が重なると、多くの人は、こう考えはじめます。「やっぱり、自分の伝え方が悪いんだ」。そして、相手に説明するたびに、うまく伝えられない自分を責め、どんどん消耗していきます。

けれど、伝わらないことのすべてを、あなたが背負う必要はありません。この記事のテーマは、「伝わらない」と「自分はダメだ」を、切り離すことです。


伝わらないと、人はまず自分を責める

何かがうまくいかなかったとき、人はその原因を、状況よりも「その人自身の性質」に求めやすい傾向があります(※1)。これは他人を見るときだけでなく、自分に向けたときにも働きます。

だから、説明が伝わらなかったとき、私たちは反射的に「自分の説明能力が低いからだ」と結論づけてしまいます。前提の距離、相手の処理ペース、相手の聞く態勢といった、前回見てきたさまざまな要因を飛び越して、いきなり「自分のせい」に着地してしまうのです。

けれど、伝達は本来、二人で築く共同作業でした。伝わらなかった結果には、相手の側の要因や、二人の間の距離も、確実に関わっています。それを全部、あなた一人の能力の問題に還元するのは、事実として正確ではありません。まず、この「自動的な自責」に気づくことが出発点です。


説明疲れは「感情労働」|あなたが消耗するのは当然

そもそも、伝わらない相手への説明は、なぜこんなに疲れるのでしょうか。それは、説明が「感情労働」を伴うからです。

伝わらないとき、私たちは内心の苛立ちや焦りを抑え込み、表面上は穏やかな顔で、もう一度言い方を変えて説明します。この、自分の本当の感情を抑えて表向きの態度を作る働きは、研究でも消耗と強く結びつくことが示されています(※2)。つまり、説明疲れは、頭を使う負担だけでなく、感情を抑える負担が重なったものなのです。

だとすれば、あなたがぐったり疲れるのは、根気がないからでも、心が狭いからでもありません。感情を抑えながら労力をかけ続ければ、誰だって消耗します。まずは、「これだけ疲れるのは当たり前だ」と、自分の疲れを正当なものとして認めてあげてください。


でも「相手のせい」にしても、ラクにはならない

ここで一つ、注意したいことがあります。自責から抜け出そうとして、今度は「全部、あの人が悪い」と相手を断罪する方向へ振り切ってしまうことです。

相手を責める考えは、一時的にはすっきりします。けれど、それを握りしめている間は、結局その人のことを考え続けることになり、苛立ちが消えません。そして「あの人は話の通じない人だ」と決めつけると、関係を変える糸口も見えなくなります。

ここで役立つのが、課題の分離という視点です(※4)。どう説明するか、どこまで労力をかけるかは、あなたの課題です。一方、それを受け取って理解するかどうかは、相手の課題です。伝わらなかったとき、自分の課題(説明の工夫)はやれる範囲でやった、と思えるなら、残りは相手の課題として、いったん手放していい。自分も相手も、どちらか一方を犯人にしないこと。それが、消耗を増やさない受け止め方です。伝え方の工夫そのものはすれ違いを減らす対話の設計|伝わる会話の作り方も参考になります。


自分を責める代わりに、自分を労う

伝わらなかった日に必要なのは、自分への追及ではなく、自分への労いです。

つらいときに自分を責めるのではなく、自分にやさしく接する態度(セルフコンパッション)を持つ人ほど、不安や落ち込みが少なく、心が安定しやすいことがわかっています(※3)。「また伝わらなかった、自分はダメだ」と責める代わりに、「あれだけ工夫したのに届かなかった、それは疲れるよね」と、自分の労力と疲れをねぎらう。それだけで、消耗の質が変わります。

具体的には、伝わらなくて疲れた日に、自分を回復させる小さなケアを一つ用意しておくのがおすすめです(※5)。温かい飲み物を飲む、その場を離れて深呼吸する、信頼できる人にこぼす。「うまく説明できない自分」を直そうとするより、「説明で疲れた自分」を手当てするほうが、ずっと現実的で、効果があります。なお、こちらは責めていないのに相手が責められたと感じてしまうケースは責めていないのに「責めた」と言われる理由|伝わり方のズレと言葉の選び方で扱っています。


今日からできる小さな一歩

今日試してほしいのは、最近「伝わらなくて疲れた」場面を一つ思い出して、心の中の言葉を一つだけ言い換えてみることです。

「自分の説明が下手だから伝わらなかった」と感じていたなら、それを「前提の距離が遠くて、説明コストが高かった。そのうえで、自分はやれることをやった」と言い換えてみてください。事実として、あなたは工夫し、労力をかけたはずです。その事実を、自分でちゃんと認める。

そのうえで、疲れた自分に、小さな労いを一つ。今日はこれで十分やった、と区切りをつける。自分を責める材料を、自分を労う材料に置き換える。その一つの言い換えが、説明疲れの悪循環を、静かに断ち切ります。


まとめ

説明が伝わらないと、人は反射的に「自分のせいだ」と結論づけてしまいます。けれど伝達は共同作業であり、伝わらない結果には、相手の要因や二人の距離も関わっています。すべてを自分の能力の問題にするのは、正確ではありません。

説明疲れは、頭の負担に加えて、感情を抑える負担が重なった感情労働です。だから疲れて当然です。一方で、自責を逃れようと相手を断罪しても、苛立ちは消えません。自分の課題はやれる範囲でやり、相手の課題は手放す。そして、責める代わりに、疲れた自分を労う。

「伝わらない」と「自分はダメだ」は、別のことです。この二つを切り離せたとき、説明はずっと軽くなります。次の記事では最終回として、説明疲れから自分を守るための、具体的な行動を見ていきます。


参考文献

※1: Gilbert DT, Malone PS. The correspondence bias. Psychol Bull. 1995. PMID: 7870861
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/7870861/
人が行動の原因を、置かれた状況より本人の性質に偏って帰属しやすいことを示した論文。伝わらない結果を自分の能力のせいと捉えがちな傾向の裏づけ。

※2: Hülsheger UR, Schewe AF. On the costs and benefits of emotional labor: a meta-analysis of three decades of research. J Occup Health Psychol. 2011. PMID: 21728441
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21728441/
本当の感情を抑えて表向きの態度を作る感情労働(表面演技)が、消耗と強く結びつくことを示した大規模なメタ分析。

※3: MacBeth A, Gumley A. Exploring compassion: a meta-analysis of the association between self-compassion and psychopathology. Clin Psychol Rev. 2012. PMID: 22796446
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22796446/
自分に優しく接するセルフコンパッションが高い人ほど、不安や抑うつが少ないことを多数の研究から示したメタ分析。

※4: 岸見一郎・古賀史健『嫌われる勇気』ダイヤモンド社, 2013, ISBN: 9784478025819
自分の課題と他者の課題を切り分け、相手の反応を抱え込みすぎない「課題の分離」の考え方を示した書籍。

※5: 伊藤絵美『セルフケアの道具箱』晶文社, 2020, ISBN: 9784794971814
ストレスや疲れから自分を回復させる具体的なセルフケアの方法を、数多くの実践として紹介した書籍。

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