干されたとき、多くの人が最初にすることがあります。原因を、自分の中に探すことです。
「あのとき、あの対応がまずかったのか」「自分には能力がないのか」。夜になっても反省会が終わらず、過去をさかのぼっては、自分のどこが悪かったのかを採点し続ける。
仕事を干されたとき、何が起きているのかで、干されるつらさは甘えではないと整理しました。今回は、その原因を見ていきます。結論から言えば、干されることの多くは、あなた一人の落ち度ではなく、組織構造の問題です。
なぜ原因を「自分」にばかり探してしまうのか
そもそも、人はなぜ起きたことの原因を自分の性格や能力に求めてしまうのでしょうか。これには、人の心が持つ思考のクセが関わっています。
ギルバートとマローンは、人が他者の行動の原因を、その場の状況よりも本人の性格や資質に帰属しすぎる傾向を「対応バイアス」として整理しました(Gilbert & Malone, 1995)※1。本来は状況で説明できる出来事でも、「あの人がそういう人だから」と捉えてしまう。そして、この矛先は自分自身にも向きます。干されたのは状況や構造のせいかもしれないのに、「自分がそういう人間だから」と結論づけてしまうのです。
原因を自分に探すのは、あなたが内省的だからではなく、人の心にもともと備わった偏りです。
「性格を責める」自己非難が、いちばん抜け出しにくい
自己非難には、種類があります。そして、どちらの責め方をするかで、その後が大きく変わります。
ジャノフ=バルマンは、自己非難を2つに分けました。ひとつは行動への自己非難(「あの進め方を変えればよかった」)で、これは変えられる対象に向かうため、次への改善につながります。もうひとつは性格への自己非難(「自分はそもそもダメな人間だ」)で、変えられない対象に向かうため、抜け出しにくく、抑うつと結びつきやすいことが示されています(Janoff-Bulman, 1979)※2。
干されたときに危ういのは、後者です。「自分は無能だ」「人間として劣っている」と、変えようのない自分の根っこを責め始めると、自責が自責を呼ぶループに入ります。このループが無力感へと深まっていくしくみは、あなたが「どうせ無駄」を学習するときとも重なります。
干されることは、上司と組織の要因が大きい
では実際のところ、人が職場で干される原因は、どこにあるのでしょうか。研究は、個人の問題よりも環境の問題の比重が大きいことを示しています。
ハワードらが職場での排除(オストラシズム)の要因を統合したメタ分析では、もっとも強く関連していたのはリーダーシップ、つまり上司や管理職の特性でした。次いで個人の性格傾向や、社会的支援などの環境要因が関わっていました(Howard et al., 2020)※3。
個人の特性もまったく無関係ではありません。けれど、それは「あなたが悪い」という意味ではなく、その場との相性や特性の問題です。そして最大の要因は、あなたではなく、上司や組織の側にあります。干されたのは、あなたの人間性が劣っているからではないのです。
干されを生む、組織構造の現実
干されは、具体的にはこうした構造の中で起こります。組織再編やポストの不足。人員整理の一環としての追い出し。派閥や人間関係の力学。評価制度と自分の持ち味のミスマッチ。誰かが責任を負わされるスケープゴート。
北野唯我氏は、働く人の価値は本人の能力だけでなく、市場や会社の構造によって大きく左右されると整理しています※A。同じ人でも、置かれる場所が変われば評価は変わります。今いる場所で干されているという事実は、あなたという人間の価値の総量を表しているわけではありません。
ただし「全部、会社のせい」で止まらない
ここまで構造の話をしてきましたが、目的は責任を会社に押しつけることではありません。「全部、会社が悪い」で思考を止めてしまうと、怒りや無力感だけが残り、動けなくなってしまいます。
構造を理解する本当の意味は、自分を責めるループを止めて、立て直しの土台を作ることにあります。原因の大半が構造にあると知ること。そのうえで、自分にできる範囲の整理に視点を移すこと。この順番が、消耗からの回復を助けます。次の記事#2では、その自分を守るための具体的な保ち方を見ていきます。
今日からできる小さな一歩
- 自責を「行動」と「性格」に仕分けする: 「あの進め方」への反省(行動)と、「自分はダメな人間だ」という断定(性格)を、紙の上で分けます。責めてよいのは前者だけです
- 干された背景の「構造要因」を3つ書き出す: 組織再編・人間関係・評価のズレなど、自分以外の要因を具体的に書きます。原因が自分だけではないと、目に見える形で確かめます
- 「この場所での評価」と「自分の価値」を線で区切る: 今の職場での扱いは、数ある環境のひとつでの結果にすぎません。あなたの価値の全体とは別物だと、はっきり区切ります
まとめ
干されると人は原因を自分に探しますが、それは対応バイアスという思考のクセによるものです。そして自分の性格を責める自己非難は、抜け出しにくく、心を深く削ります。
研究が示すのは、干される最大の要因が上司や組織の側にあるという事実です。干されることは、あなたの人間性が劣っている証明ではなく、組織構造の中で起きていることです。この理解を、自分を責めるのをやめて次に進むための土台にしてください。
なお、退職勧奨・不当な配置転換・嫌がらせなど、法的な対応が関わる可能性がある場合は、労働組合や弁護士、労働局・総合労働相談コーナーなどの専門窓口にご相談ください。この記事は法律や医療の助言に代わるものではありません。
このシリーズの記事一覧
仕事を干されたつらさを整理し、自分を守りながら次の一歩を選ぶためのシリーズです。
- 仕事を干されたとき、何が起きているのか|「戦力外」の宙吊りがつらい理由
- 本記事:なぜ人は職場で干されるのか|あなたのせいだけではない組織構造の問題
- 記事#2:干された心を守る|無力感と「社会的な痛み」から自分を取り戻す(公開後にリンク追加)
- 記事#3:干された先の選択肢|とどまる・動く・出るを冷静に選ぶ(公開後にリンク追加)
参考文献
※1 Gilbert DT, Malone PS. “The correspondence bias.” Psychol Bull. 1995;117(1):21-38. PMID: 7870861
人が他者や自分の行動の原因を、状況よりも性格や資質に帰属しすぎる傾向を「対応バイアス」として整理した論文。干された原因を自分の中ばかりに探してしまうしくみの根拠となっている。
※2 Janoff-Bulman R. “Characterological versus behavioral self-blame: inquiries into depression and rape.” J Pers Soc Psychol. 1979;37(10):1798-1809. PMID: 512837
自己非難を、変えられる行動への非難と、変えられない性格への非難に区別し、後者が抑うつと結びつきやすいことを示した研究。干された際の性格への自己非難が抜け出しにくい理由の根拠となっている。
※3 Howard MC, Cogswell JE, Smith MB. “The antecedents and outcomes of workplace ostracism: A meta-analysis.” J Appl Psychol. 2020;105(6):577-596. PMID: 31556627
職場での排除の要因を統合し、もっとも強い要因がリーダーシップ(上司)特性であり、次いで性格や環境要因が関わることを示したメタ分析。干される最大の要因が個人の落ち度ではなく組織側にあることの根拠となっている。
※A 北野唯我著『このまま今の会社にいていいのか?と一度でも思ったら読む 転職の思考法』ダイヤモンド社、2018年。ISBN:9784478105559
働く人の価値が本人の能力だけでなく市場や会社の構造に左右されることを説いた一般向けキャリア書。今の職場での評価が自分の価値の全体ではないという本記事の考え方の参考としている。
※B 鈴木祐著『科学的な適職 4021の研究データが導き出す』クロスメディア・パブリッシング、2019年。ISBN:9784295403746
多数の研究データをもとに、思い込みではなく環境や適合の観点から働き方を捉える重要性を整理した実用書。干される原因を個人の資質だけに帰さない本記事の視点の参考としている。


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