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「うまくいくはずがない」という確信を無効化する思考

「うまくいくはずがない」という確信を無効化する思考 自分を守るための話

「どうせうまくいかない」

まだ何も始めていないのに、頭の中ではすでに失敗が完成しています。転職の面接を申し込む前から「落ちる」と確信している。新しいことに挑戦しようとした瞬間、「どうせ無理」という声が聞こえてくる。

この「うまくいくはずがない」という確信は、どこから来るのでしょうか。

それは予知能力でも、正確な自己分析でもありません。脳が作り出した「最悪のシナリオ」を、まるで現実のように扱ってしまう思考の癖です。心理学では、これを「破局的思考(Catastrophizing)」と呼びます。


破局的思考とは何か

破局的思考とは、まだ起きていない出来事について、最悪の結果を過剰に確信する思考パターンです※1。

「うまくいかないかもしれない」という不確かな予測が、いつの間にか「絶対にうまくいかない」という確信に変わっている。この変換が無意識のうちに起きているのが特徴です。

認知行動療法(CBT)の創始者アーロン・ベックは、このような思考の歪みが不安やうつの根本にあると指摘しています※2。破局的思考は「認知の歪み」のひとつであり、感情ではなく「考え方のパターン」として捉えることができます。

つまり、感情の問題ではなく、思考の癖の問題です。癖は変えることができます。


なぜ脳は最悪を先取りするのか

脳が最悪のシナリオを先取りするのには、理由があります。

人間の脳はもともと、危険を素早く察知して生き延びるために設計されています。「もしかしたら危ないかもしれない」という可能性を、「危ない」と判断して回避する。この仕組みが、かつては命を守っていました。

問題は、この生存本能が現代の「失敗するかもしれない」という状況にも同じように作動することです。面接に落ちることと、野生動物に襲われることを、脳は同じ「脅威」として処理してしまいます。

「うまくいくはずがない」という確信は、過剰に敏感になった脅威センサーが作り出したシナリオです。現実ではなく、脳の防衛反応です。


回避がループを作る

破局的思考がやっかいなのは、それが「回避行動」につながるからです※3。

「どうせうまくいかない」と感じる → 行動を止める → 「やっぱり何も変わらなかった」という経験が積み重なる → ますます「うまくいくはずがない」という確信が強まる。

このループは、行動しないことで一時的な安心を得ながら、長期的には確信を強化し続けます。回避は不安を解消するのではなく、不安を育てます。

池田貴将氏は著書の中で、停滞の正体は「動かないことへの慣れ」であると指摘しています※5。行動を止め続けることで「やはり自分には無理だ」という確信が強化され、次の一手がますます重くなる。このメカニズムは、破局的思考が作る回避ループと本質的に同じです。


3つのシナリオで確信を揺さぶる

破局的思考を解体する実践的な方法として、CBTでは「3シナリオ法」が活用されます。

ある出来事について、次の3つを書き出します。

  • 最悪のシナリオ:面接に落ちて、どこにも採用されない
  • 最良のシナリオ:一発で内定が出て、理想の仕事につく
  • 現実的なシナリオ:今回は縁がなかったかもしれないが、準備を重ねれば次につながる

ほとんどの場合、現実は「最悪」と「最良」の間にあります。脳が「現実」として扱っているのは最悪のシナリオだけですが、実際に起きることは現実的なシナリオに近いことがほとんどです。

3つを並べることで、脳が見えていなかった「現実的な可能性」が視野に入ってきます。


機嫌よくいるための「解釈の習慣」

破局的思考から抜け出すには、出来事そのものを変えるより、出来事への解釈を変える習慣が効果的です。

岡崎かつひろ氏は著書の中で、機嫌よくいられる人の共通点として「起きたことをすぐに最悪と決めつけない解釈の習慣」を挙げています※4。うまくいかなかった経験を「失敗の証拠」ではなく「次への情報」として受け取る視点の転換が、感情の安定につながるという考え方です。

「うまくいくはずがない」という確信は、解釈の問題です。そして解釈は、練習によって変えることができます。


今日からできる小さな一歩

「どうせうまくいかない」という考えが浮かんだとき、次の問いを試してみてください。

「これは事実? それとも、最悪のシナリオ?」

その問いに答えるだけで、確信に小さなひびが入ります。最初から思考パターンを変えようとしなくて構いません。「あ、また最悪シナリオを現実にしていたな」と気づくことが、ループから抜け出す入口です。


まとめ

「うまくいくはずがない」という確信は、脳が作り出した「最悪のシナリオ」です。破局的思考は感情の問題ではなく思考の癖であり、回避行動によってループが強化されていきます。

3シナリオ法で現実的な可能性を視野に入れ、解釈の習慣を少しずつ変えていくことが、この確信を解体する手がかりになります。「うまくいくかどうか」はまだわかりません。「うまくいくはずがない」も、まだわかりません。

脳のシナリオと、現実をいったん切り離してみてください。

ちょっとした名言

マルクス・アウレリウス(ローマ皇帝・哲学者、121–180年)

“You have power over your mind, not outside events. Realize this, and you will find strength.”

「心の力は、(自分の)外の出来事にあるのではなく、それをどう捉えるかにある」

出典:『自省録(Meditations)』第6巻。


参考文献

※1 Sullivan MJ, Bishop SR, Pivik J. The Pain Catastrophizing Scale: development and validation. Psychol Assess. 1995;7(4):524-532. PMID: 10188012
破局的思考の測定尺度を開発した論文。反芻・拡大解釈・無力感の3因子から破局的思考を定義し、その構造を実証的に示した。

※2 Beck AT. Cognitive therapy: A 30-year retrospective. Am Psychol. 1991;46(4):368-375. PMID: 2048794
認知行動療法の創始者ベックによる認知の歪みの体系的整理。破局的思考を含む非機能的思考パターンが感情障害の核心にあることを論じた。

※3 Craske MG, Kircanski K, Zelikowsky M, et al. Optimizing inhibitory learning during exposure therapy. Behav Res Ther. 2008;46(1):5-27. PMID: 18541250
回避行動が不安を維持・強化するメカニズムを解説し、恐怖反応の抑制学習における暴露療法の有効性を示した論文。

※4 岡崎かつひろ『いつも機嫌よくいられる本』すばる舎、2026年、ISBN:4799113925
機嫌よくいられる人の思考・行動習慣を整理した書籍。出来事への解釈の柔軟性が感情の安定につながることを、実践的な視点から解説している。

※5 池田貴将『人生アップデート大全 停滞した自分を変える66の習慣』ダイヤモンド社、ISBN:4478123853
停滞の正体は「動かないことへの慣れ」であると指摘し、小さな行動の積み重ねが自己認識と習慣を更新していくプロセスを解説した書籍。

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